第109話 伝説の植物?
「あ、アレックスはん。そ、そちらの方って……」
「すまない。紹介するよ」
レイがニナやノーラを見て戸惑っていたので、一通り説明し、
「こちらは、東の村で出会った薬師のレイだ」
「レイです。皆さん、よろしゅうお願いします」
最後に皆へレイの事を紹介する。
「あ、あの……失礼やけど、さっき紹介してもろたリディアはんは、エルフ……やんな?」
「そうですけど、何か?」
「やっぱりーっ! なるほど! それなら納得やわ。この村の植物がめちゃくちゃなんも」
植物がめちゃくちゃというのが、どういう事かと聞いてみると、季節感が皆無だと言われて俺も納得した。
リディアの精霊魔法は凄まじいからな。
エクストラスキルで、俺も土の精霊魔法が使えるようになっているけど、リディアの木の精霊魔法のおかげで、この何も無い地で作物が収穫出来ている訳だし。
「あの、リディアはん……エルフやし、植物には詳しいんやんな?」
「それなりには」
「そ、それなら、マンドラゴラが生えている場所とかも知ってるん?」
「マンドラゴラ……あぁ、知っているどころか、生やす事も出来ますけど、あれはそこまで効能高くないですよ? それに、魔物化している可能性がありますし」
「マンドラゴラを生やせる!? 種から栽培してるっちゅー事か! 流石エルフ……発想が違う!」
何やらレイが興奮しているけど、リディアは種からじゃなくて、精霊魔法で植物を生やす事が出来るんだよな。
というか、俺たちの為に野菜や果物を生やしてくれていたけど、当然ながら他の植物も生み出せるのか。
「リディアはん。お願いや! ウチにマンドラゴラを分けてくれへんやろか」
「……マンドラゴラよりも、安全で効能の高い薬草はいっぱいありますけど」
「そうかもしれん。けど、薬師にとってマンドラゴラは、憧れの植物というか、一度は扱ってみたい植物やねん!」
「まぁそうまで仰るのなら……アレックスさん。レイさんにマンドラゴラを提供しても宜しいですか?」
おっと、ここで俺に振られるのか。
良いけど、俺はマンドラゴラに詳しくないから、よく分からないんだけどな。
「別に構わないけど、危険は無いんだよな?」
「大丈夫です。仮に魔物化しても、勝手に走り回るくらいですし。ただ、誤ってそのまま食べたりはしないでくださいね」
「マンドラゴラって、確か人型の根っこだろ? 流石にそれは食べないさ」
「では、そういう事ならマンドラゴラを生み出しますね。レイさん、こちらへ」
一先ず顛末は見ておこうと、俺もレイと一緒に移動する。
リディアについて行くと、家の近くまで歩いて行き、壁の近くで木の精霊魔法を使う。
「リディア。耕さなくて良いのか?」
「作物を作る訳ではないですし、一本だけなので大丈夫かと」
そんな話をしているうちに、小さな葉っぱが出てきたので、土の精霊魔法で成長させ、
「レイさん。出来ましたけど」
地面から出た緑色の葉が大きく育った。
そこへレイが近付き、神々しく緑の葉を見ている。
「おぉぉ……これが伝説のマンドラゴラなんか! ほな、引っこ抜くから、皆離れてや!」
「引っこ抜くのに、どうして離れるんだ?」
「マンドラゴラは、地面から引き抜く時に大きな悲鳴をあげるねん。けどな、その声を聞いたら死んでまうから、犬に紐を付けて、マンドラゴラに結ぶんや。ほんで、離れた所から犬を呼んだら、紐に付いたマンドラゴラが抜けるっちゅー寸法や」
「……マンドラゴラに紐を付けるなら、犬に引っ張らせなくても、自分で引っ張れば良いんじゃないのか?」
「いやいや、マンドラゴラは犬に引っ張らせるというのが伝統的な方法やねん。……で、犬は?」
「いや、ここに犬なんて居ないんだが」
強いて言うなら、シャドウ・ウルフが犬っぽいか?
まぁあれに紐なんてつけられないけどさ。
「な、なんやてーっ! 犬がおらんっ!?」
「ついでに言うと、長い紐も無いぞ」
「そんなっ! ほな、どうやってマンドラゴラを抜いたらえーねんっ!」
いや、それを俺に聞かれても困るんだが。
そんな事を考えていると、おもむろにリディアが緑の葉を引き抜く。
「あの、そんな面倒な事をしなくても、風の魔法で音を遮断すれば良いだけですが」
「く、薬師の伝統が……けど、マンドラゴラがウチの手にっ!」
人の形に見えなくもない、小さな根っこを手にしたレイが小躍りし、
「アレックスはん! ありがとうな! このマンドラゴラを使って、凄い薬を作るわ!」
「おぉ、薬を作れるっていうのは凄いな」
「任せといてっ! 最初は、ウチの棲んでたところと文化が違ってビックリしたけど、ちゃんと理解したから大丈夫! 助けてもらった恩返しに、アレックスはんにピッタリで、めちゃくちゃ役立つ薬を作るから、今夜は楽しみにしといてなっ!」
文化の違いというのはよく分からないが、それはさておき、レイが俺に必要な薬を作ってくれると言ってきた。
しかし、俺は状態異常に耐性もあるし、薬なんて……とも思うが、夜に出来上がるそうなので、一先ず待つ事にしよう。
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