挿話146 慌てふためくダークエルフのフョークラ

「な、何だこの魔力は!?」

「フョークラも感じたのね」

「あぁ。こんなに凄い魔力が二つも同時に来るなんて。こんな事は今まで……いや、一度あったか。だが、あの時よりも近い!」


 二つの魔力のうち、一つはドラゴンだろう。

 恐ろしい相手ではあるが、何もせずに刺激しなければ、勝手に何処かへ行ってくれるはずだ。

 南東から近寄って来たので、おそらく海……海竜か水竜だと思われるので、通り過ぎるのを待てば良い。

 とはいえ、前にこの近くへ来た時は機嫌が悪かったのか、それともどこかのバカが何かしたのか、凄まじい水の魔法の攻撃が二回も放たれていた。

 あんなのに巻き込まれたら、命が幾つあってもたりないのだが、それ以上にもう一つの魔力が問題だ。

 数日前にも似た魔力を感じたのだが、あの時よりも更に強大になっている。


「もしかして……この魔力って神獣じゃないかしら?」

「……この強大さからするとあり得ない話ではないが、神獣は魔王に挑み、敗れたはず」

「でも、魔力の波長がドラゴンではないし、魔族って感じでもない。人間ではあり得ない魔力の強さだし、エルフならもっとはっきり分かる。他に可能性があるのって言ったら、神族くらいじゃない」

「だが、神獣がドラゴンと行動を共にするだろうか。幾ら神獣が弱体化しているとはいえ……いや、弱体化しているからこそ、弱き者と行動を共にするとは思えないが」


 ドラゴンは総じてプライドが高い生き物だ。

 事実、神族を除けばドラゴンが最強である事は間違いないし、属性の相性によっては魔族にすら勝る強さを持つ。

 つまりドラゴン同士で群れる必要がなく、他の種族とも行動を共にしない。それが先祖から聞かされてきたドラゴンの生態だ。

 いくら我らダークエルフの寿命が長いとはいえ、ドラゴン程ではないし、そう簡単にドラゴンの行動が変わる事はないだろう。

 まぁ、その高いプライドを曲げてでもドラゴンが得たいと思う何かを持っている種族が居れば、話は違ってくるのかもしれないが。


「ねぇ、フョークラ。二つの魔力が東で止まったわ」

「……ゆっくりと近付いて来ているようだな」

「それってつまり、海から地上に上がって来ようとしているって事? つまり空が飛べる……まさか海竜と飛竜が行動を共にしている!?」

「流石にそれは無いと思いたいが……万が一そんな事があったら、逃げるしかないな」

「でも逃げられる? 相手が飛竜だったら最悪よ?」


 確かに爆速のドラゴン、飛竜に追われたら逃げる術はないが……森の中でならまだ勝機はある。

 木に紛れ、土に潜り、何が何でも逃げてやるんだ!

 そんな事を考えていると、


「ま、待って! フョークラ……人間よ! 人間が竜人族と一緒に居るわ! あとはドワーフと獣人かしら?」

「あの小柄な幼女が竜人族じゃないか?」

「小さな女の子は四人居るけど、どの子?」

「青髪の子だよ。髪が長くない方の」


 そう言いつつも、竜人族の幼女の髪が短い訳ではなく、青髪が三人居て、内二人の髪が長すぎるだけだが。


「あの子ね……けど、あの人間族の男性は変態なのかしら。子供ばかり連れているわ」

「それなら君は逃げた方が良い。狙われるかもしれない」

「酷い! 確かに私はフョークラみたいに胸は大きくないけど、あの子たちみたいに小さくはないんだから」

「だが……逃げた方が良いのは本当だ。あの人間族の男……何か変だ。とてつもない魔力を身体に秘めているし、そもそも竜人族が行動を共にしている時点でおかしい。絶対に何かあるぞ」

「そうね。けど、逃げるなら一緒によ! 行きましょう!」


 森の中からドラゴン一行を観察していたが、気付かれない内に……と、森の奥へ逃げる。

 だが、何とか動向は確認しておき……


「って、まずい! 向こうの森に入った! あっちは狩猟用の罠が沢山あるんだ!」

「そ、それって……ま、まさか罠にかかったりしないわよね? 動物用の簡単で単純な罠だし」

「大丈夫だと思いたい。動物用の罠に引っかかって、怒りで森を消滅させられたら、俺たちの生きる場所がなくなるし、そもそも巻き込まれたら死んでしまう」


 話している間に、かすかに罠が起動した音が聞こえた。

 嘘だろ……これで敵意ありと思われたら、どうしたら良いんだ!?


「どうやら罠が発動してしまったらしい。私が見てくるから、絶対に近付くんじゃないぞ?」

「ほ、放っておいて逃げましょうよっ!」

「いや、敵意が無い事を示して、罠を外してくる。この森を消されないように」

「……フョークラ。絶対に戻って来てよ?」

「当たり前だ。早く……そして、村の皆に隠れるように伝えてくれ」

「わかった……」


 さて……相手はドラゴンを同行させる、謎の人間族だ。

 もしもあの男が幼女趣味なら、身長も胸も大きい私なら、見逃してもらえる可能性がある。

 森を……そして、村の皆を守るんだ!

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