挿話147 恐れるダークエルフのフョークラ

 離れた場所から罠の発動音した方角を見てみると、幼い女の子が捕獲用の網に引っかかっていた。

 マズい! よりによって、幼女か! あの無茶苦茶な魔力を持つ人間族の男のお気に入りかもしれない。

 急いで謝罪し、罠を解除しようと思ったら、青い何かが網に向かって伸びていく。


「――っ!?」


 あ、危ない。思わず、悲鳴をあげてしまうところだった。

 あれはおそらく触手。主に植物系や悪魔系の魔物が使うと言われる、女にとって最悪の攻撃手段だ。

 祖母から聞いた話では、あの長い蔓のような触手で動物のメスを捕縛するのだが、触手全体から催淫効果のある液体を出し、体内を含めたありとあらゆる箇所を三日三晩嘗め回すらしい。

 いずれ精神が崩壊し、生ける屍となったメスの体内に卵を産みつけて苗床にすると、更に卵が孵化した後のエサにするとか……お、恐ろし過ぎる。


「あっ! つまりあの男は、人間族に姿を化かした悪魔族。いや、周囲の女性たちが精神崩壊していなさそうなところを見るに、夢魔族……インキュバスなのか!」


 実際に見た事は無いが、インキュバスに出会ったらすぐに逃げろと、父から何度も言われている。

 あんなに小さな幼女に手を出すインキュバスが居るとは思わなかったが……どうする。インキュバスと一緒に居るという事は、あの竜人族は既に魅了されているはずだ。

 つまり、あの男の言いなり状態……怒らせれば、辺り一帯を更地にするくらい容易だろう。

 しかしインキュバスという事は、逆に言えば女である私にはまだ可能性がある。


「村へ戻って男を呼べば、魅了はされない代わりに瞬殺される。私が……私が魅了に耐え、奴らを村から遠ざければ、皆は助かる」


 おそらく純潔を奪われ、子供を宿されるだろう。

 だが村の男を皆殺しにされ、種族が滅ぶ事に比べれば……行こう!

 エルフは身体が細く、胸が小さいのが当たり前の種族だ。

 その為、エルフにしては胸が大きい私はこの歳になっても、一度も恋人が出来た事がない。

 どうせ独身で生涯を終えるであろう私の人生で、村を救えるのであれば、安いものだ!

 覚悟を決め、持っていた狩猟用の弓矢や短剣なども全て外し、丸腰でインキュバスたちの元へ走る。


「父上。怖かったですー! 抱きしめてください」

「わかった。わかったから、服を脱ぐな」


 インキュバスたちのすぐ近くまで来ると、とんでもない会話が聞こえて来た。

 なっ!? まさか娘だったとは。幼女趣味ではなかったのか!

 だが、これであの男がインキュバスだというのが確定した。

 あの娘もインキュバスの血を引いているからか、あの年齢にして男を求めているし、男が人間族だとしたら、娘の年齢に対して若すぎる。

 今更止まれないし、竜人族に魔力を感知されているはずなので、予定通り男の前へ出て跪き、頭を下げる。


「申し訳ありません。そちらの罠は動物を狙っていた物であり、貴方様たちに仕掛けた物ではないのです!」

「ん? えっ……エルフ!? まさか君はエルフなのか!?」

「はい! 私は旅をしているダークエルフのフョークラと申します。この森で少し食料を調達しようと思っただけで、決してこの近くにダークエルフの村などはございません!」


 インキュバスは魔力の量は凄まじいものの、私が女だからか敵意が向けられていない。

 だが、いきなり現れた私を警戒しているのだろう。竜人族の魔力の圧が凄い。

 インキュバスに魅了される前に、この竜人族のプレッシャーで押し潰されてしまうっ!

 お願い! 早く森から出て行って!


「俺はアレックスという者なのだが、君は旅をしていると言ったね」

「は、はい! この森には来たばかりで、決して長年住んでいたりしません!」

「では、どこから来たか教えてくれないだろうか。今はある用事があって西へ向かっているのだが、それとは別でエルフが住んで居る場所を探しているんだ」


 え? エルフが住んでいる場所を探しているってどういう事なの!?

 ……よく見たら、竜人族と人間族だけでなく、ドワーフ族に獣人族らしき女性も一緒に居る。

 ま、まさか、様々な種族の孕ませたくて、エルフの女性を狙っているのっ!?

 ……いや、逆にこれはチャンスだ。もしも私がこのインキュバスに孕ませられれば、村だけでなく全てのエルフを守る事が出来る!


「あ、あの! エルフが住む場所は知らないのですが、私を連れて行ってくださらないでしょうか!」

「え? えっと、いわゆる迷子というか、故郷への帰り方がわからないって感じなのか?」

「そ、そうなんです! どうか貴方様と行動を共にさせてください!」

「そういう事ならわかった。ただ、次はこのニナの番だから、その後になるが構わないだろうか」

「勿論です! 私は貴方様と一緒に居られるだけで良いのです!」


 なるほど。女性側に順列があって、このドワーフ族の少女が一番低い順列で、私はその次という事ね。

 おそらく女性側のトップは、この竜人族の女性だと思うけど、出来るだけ早く順列を覚えて、失礼のないようにしないと。

 私がこのインキュバスの子を宿す事で、エルフを守るんだっ!

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