第790話 何故か怯えるフョークラ

 罠にかかったモニーを救助し、先へ進もうかと思ったところへ、エリーの色違い……というのは失礼だが、銀髪に褐色の肌のエルフ、フョークラが現れた。

 フョークラ曰く、故郷へ帰り方が分からず、同行させて欲しいという事なので、ひとまず一緒に西へ……人魚族の村へ行く事にした。


「こっちへ進むと落とし穴がありますので、少し遠回りに思えますが、こちらの道へお願い致します」

「皆さん、そこに魔物用の罠があります。気を付けてください」

「そっちは村……こほん。こっち、こっちの道の方が安全です! そっちには絶対行ってはいけません」


 この森で狩りをしていたというだけあって、フョークラの指示に従って進むと、誰かが罠に引っかかったりする事もなく、スムーズに進む。

 ……まぁ歩みが遅いマリーナと、先程罠に引っかかってしまったモニーを俺が抱きかかえているから……というのもあるのだろうが。

 ただ、一つだけ問題がある。

 このフョークラは、人との距離感がつかめないのか、それとも迷子になって長年一人だったからなのか、理由はわからないがとにかく近い。

 薄く、身体を覆う面積が少ない布の服一枚しか着ていない状態で、ずっと俺に密着している。


「……アレックス。ダークエルフはリディアとは違って、毒にも詳しい。気を許し過ぎはダメ」

「えぇっ!? ご、誤解ですっ! 確かにダークエルフは植物に詳しく、毒を調合する事も出来ますし、それを狩りに使う事もあります。ですが、今の私は何も持っておりません」

「……逆に持たなさ過ぎ。旅をしているって言ってた。でも、手ぶらは変」


 俺の背中におぶさるレヴィアが、フョークラに疑惑の目を向ける。

 うーん……まぁ言われてみれば、旅をしている割には荷物が何も無いというのは変な話かもしれないな。


「フョークラ。もしかして、何処かに荷物を置いていたりするのか?」

「――っ!? そ、そんな事はないです。森の近くに家があったりなんてしません」

「そうか……でも、フョークラはエルフだしな。何かあっても、精霊魔法で食料などを出せるから、荷物が少ないんじゃないのか?」

「精霊魔法で食料!? うーん。出来なくはないですが、精霊魔法は魔力の消費が激しいので、あまり使う機会はなくて……」


 そういえば、リディアも精霊魔法を使う時はいつも俺が魔力を分けているな。

 最近は魔族領で大規模な畑が出来ているし、シェイリーが作ってくれた森もあって、石壁の拡張はメイリンの人形たちでも出来るから、それ程リディアに頼む事はないが。

 ……というより、今はお腹の子供の為に、安静にしてもらいたいしな。


「フョークラ。俺はパラディンというジョブを授かっていて、魔力を譲渡出来る。精霊魔法を使うのであれば、言ってくれ。そうそう魔力切れを起こす事はないからさ」

「魔力譲渡……なるほど。レヴィアさんの魔法攻撃が無尽蔵に放てるというのは、かなり脅威ですね」

「……レヴィアたんはアレックスから魔力を分けてもらう必要はない。アレをもらえば、魔力が溢れ出す」


 いや、レヴィアは行動を共にするようになったばかりのフョークラに何を言っているんだよ。

 意味が分からず、キョトンとしているじゃないか。

 とはいえ、説明をする訳にもいかないし、何か誤魔化さないと。


「あの、アレ……とは?」

「……欲しいの?」

「え? そのニヤニヤは……どういう意味ですか!?」


 背中に居るから見えないが、レヴィアはどんな表情をフョークラに向けているんだ!?

 あと、さり気なくマリーナは触手を伸ばさないように。

 とりあえず、この流れはマズい! 話題を……話題を変えるんだ! エルフ……エルフに関する話は何か無いか!?


「そ、そうだ! フョークラは霊樹って知っているか?」

「れ、霊樹ですかっ!? それは……エルフで知らない者は居ないかと」

「なるほど。それも、もし場所を知っていたら教えて欲しいんだ」

「霊樹の場所を……ですか? あの、失礼ながら霊樹はエルフのシンボル的な意味合いでしか……」

「いや、いろいろあって知り合いにドリアードが居て、霊樹のある場所でのみ会う事が出来るからさ」


 今向かっている人魚族の棲家も、そこそこ近くにノーラの故郷があって、そこに霊樹が生えている。

 霊樹があれば、ドロシーが転移させてくれるから、もっと早く移動出来るんだよな。


「ど、ドリアードっ!? ま、まさか木の精霊にまで子供を……す、凄いですね」


 あれ? どういう訳かフョークラが若干引いていないか?

 しかも、小声で何か言っていたような……?

 フョークラが何を言いかけたのかは分からないが、案内してくれたおかげで何事も無く森を抜ける事が出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る