第791話 北大陸の振り返り

 フョークラと出逢った森を抜けて少し歩いていると、


「アレックス様。向こう岸に何かありますよー!」


 グレイスに呼び止められ、対岸に目を向ける。

 あれは……見覚えがあるな。

 確か……そうだ。あれだ!


「あれは水車小屋だ。あそこに村があるんだよ」

「そうなんですねー! あ、確かアレックス様は前に来られた事があるんでしたっけ?」

「あぁ。あの時は大変だったな……」


 あの水車の村には、ラヴィニアやユーリに、ニナの人形ニースと一緒に行く事になったのだが、まだランランに自動発動してしまう魅了スキルを封印してもらっていなかったからか、村中の女性が俺に迫って来て大変だった。

 確か夜這いの風習があるとか言っていたのと、俺の姿になったプルムを置いていく事になったのだが……大丈夫だろうか。


「そういえば初めて来た時は、この少し先……かな。廃墟をゴブリンが棲家にしていて、知らずに近寄ったユーリが弓で射られたんだ」

「えぇっ!? ユーリちゃんが!?」

「あぁ。ラヴィニアのおかげで助かったのと、そのゴブリンの棲家は俺とレヴィアできっちり潰しておいたけどな」


 対岸からの投石である程度削った後、レヴィアが強力な水魔法を放って地形が変わったからな。

 改めてレヴィアは怒らせてはダメだと思ったものだ。

 そんな事を話しながら西へ歩いて行くと、大きな街が見えてきた。


「アレックス様。先程お話しいただいたゴブリンの棲家とは、まさかあの街の事でしょうか?」

「いや、レヴィアの魔法で跡形もなくなっているし、ゴブリンの棲家はもう少し向こうだったと思うから、違う街だろうな」


 グレイスが少し怯えているが、ゴブリンの棲家はムササビ耳族の村から河を挟んで反対側だった。

 今は反対側には水車の村が見えているし、やはり別の街だろう。

 とはいえ、ここが普通の街なのか、ゴブリンたちに占拠された街なのかは、ここからでは判断出来ないが。


「へぇー、森から西へ行くと、こんなに大きな街があったんですねー。知らなかったです」

「フョークラも初めて見るのか?」

「はい。私は殆ど森から出たことがないので」

「……ん? でも、旅をしているんだよな?」

「あっ! え、えっと、人間族とエルフは時間の感覚が違うので、暫くあの森から出ていなかったという意味です」


 なるほど。エルフや天使族たちは俺たちよりも遥かに長い寿命があるからな。

 考え方や表現なんかも、少しずつ違いがあるのだろう。


「……という事は、フョークラは南から来たという事か? あの森の北側は河だし、東側は海だしさ」

「そ、そうです。そうなんです……が、ただ私は方向音痴な上に、物覚えもちょっと悪くて、もしかしたらこの街も通っていたのかもしれません。えぇ、やっぱり西から来た気がします。森の南側なんて、行った事もありません。ありませんとも!」


 何だろう。フョークラは時々物凄い早口になるよな。

 まぁわざわざそれを突っ込んだりする気はないが。


「……アレックス。レヴィアたん、沢山泳いだし、森も歩いた。今日はこの街で休んで、明日出発がいい」

「レヴィアが頑張ってくれたのはよく分かっているんだが、モニカが待っているからな……」

「アレックス、よく見て。レヴィアたんたちみたいに、おんぶや抱っこしてもらっていると元気。だけど、自分で歩いているメンバーは疲れてる。休憩すべき」


 う……確かに。

 グレイスは元々冒険者だし、ニナも体力があるから平気そうだ。

 だが、トゥーリアとルクレツィアに至っては、ここまで殆ど喋らずに黙々と歩いてきた。

 二人は海が得意な種族だし、森の中を歩くというのは相当大変なのだろう。

 しまったな。またもや俺の配慮が欠けていたな。


「そうだ! グレイス、馬車を出してくれないか? 森の中では使えなかったが、ここなら大丈夫だろう」

「あ! そうですね! アレックス様には申し訳無いのですが、実は私もそろそろ休憩が欲しかったんです」


 グレイスも疲れていたのか。

 皆、そういう事はどんどん言って構わないんだからな?

 という訳で、グレイスに空間収納魔法から馬車を出してもらい、皆を乗せて俺が引く事に。


「あれ? アレックス様……分身は出してくださらないんですか? ナターリエさんの時みたいに」


 グレイスがとんでもない要求を出したが、レヴィアにマリーナ、モニーとフョークラが居るところで、そんな事は絶対に出来ないんだが。

 ひとまずグレイスには悪いがスルーして、街を通り過ぎて更に西へ向かう事にした。

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