第884話 潜伏するアレックス
周りに大勢の人間が集まってくる気配がする。
出来れば穏便に出ていきたい所だが……場合によっては、この建物に要る者たちも倒さなくてはならない。
だが、その判断をする為の情報が少な過ぎる。
建物の一階にあった物陰に潜んでいると、
「生徒たちの話によると、二階から中庭へ飛び降りたらしいわ!」
「普通の建物の二階と同じだと思ったのだろう。ここは、普通の建物よりも遥かに天井が高い。おそらく足を負傷して隠れているはずよ!」
「目撃情報によると、侵入者は若くて男前らしいわ。生徒への影響を最小限にする為、大至急捕まえるのよっ!」
明らかに、二階にいた少女たちとは声色の違う女性の声が響き渡る。
この施設を守る用心棒といったところだろうか。
話を聞きたいが、見つかると大勢集まってしまうだろう。
……仕方がない。あまり使いたくない手ではあるが、やるしか無いか。
物陰から気配を探っていると、
「向こうに、全裸でクネクネし続けている女教員が見つかったそうだ!」
「ま、まさかザガリー様以外の男を受け入れたのか!? 羨ま……こほん。この中学校から追放されるのでは!?」
「まて。まだ黒と決まった訳ではないし、優先すべきは侵入者の発見だ」
最初に話を聞こうとして、一人で服を脱ぎだした女性が発見されたようで、皆がそっちへ向かっているようだ。
これなら、この隙に一旦外に出て、太陰と合流したいところだが……中学校とはなんだろうか。聞いた事のない言葉だが、この国独自の学校制度なのだろうか。
気配を探り、近くに誰も居ない事を確認して物陰から出ると、廊下を足早に歩いて外へ向かう。
マリーナやフョークラが言うような、敏捷性特化の怪盗だったら良かったのだが、足音を立てずに走るなんて事は出来ないので、これが俺にとって最速なのだが……前方にある部屋から、全裸の少女が出てくる。
「あ。もしかして、さっき放送で……」
「すまん。≪サイレンス≫」
一時的に言葉を封じる中位の神聖魔法を使うと、そのまま出てきた部屋の中へ入り、扉を閉める。
中は最初に小さな窓から覗いた通りで、物凄く狭い。
だが、この少女しか居ないようなので、まずは上着を着せ、小声で事情を説明して、話を聞かせてもらう事にした。
「……という訳だ。協力してくれるなら、頷いて欲しい。沈黙状態を解除する」
「……!」
少女が無言のまま、何度も頷く。
すまない。早く沈黙状態を解除しろという事だろう。
すぐに沈黙状態を治すキュア・サイレンスを使用すると、少女が目を輝かせて詰め寄ってくる。
「あ、あの……貴方は、もしかして男性ですかっ!?」
「え? そ、そうだが?」
「わぁぁぁっ! これが、男性なんですねっ! 本物を初めて見ましたっ!」
「えぇっ!? ど、どういう事なんだ!?」
いや、男を見た事が無い……なんて有り得るのか?
そう思ったが、一つ嫌な推測をしてしまった。
「……もしかして君は、幼い頃からずっとこの施設にいるのか?」
「はい。四歳くらいの頃ですかね? お母さんが私をご主人様に預けて以来、ずっと学校で暮らしているので」
「学校というのは……」
「ご主人様が運営されている三つの学校です。ご主人様が、幼学校、小学校、中学校と名付けられたそうですが、私は小学校に中途入学して来た子たちとは違って、幼学校からずっといるので」
「……学校の外にも出ないのか?」
「はい。外に出たのは、幼学校から小学校、小学校から中学校へと学校が上がる時くらいでしょうか。といっても、完全に覆われた馬車で移動してきたので、学校の外がどうなっているかはわかりませんが」
ひとまず、この少女が人身売買の被害者だという事はわかった。
ちゃんと学校として教育を施していた事は、まだ救いだが……だが、どうしてここでは全員裸なのだろうか。
「え? どうしてと言われても、そういうものだと教わったので。十三歳になったら、妊娠するか十五歳になるまでは服は着ないのが常識だと教わっていますよ?」
なるほど。それで上着を着せたら、不思議そうにしていたんだな。
……これは、どうしたものだろうか。
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