第827話 正義の力

「あの建物みたいだな」

「クケェッ! 悪に正義の鉄槌を下す時が来たのだっ!」

「ふふふっ。お仕置きは何の毒にしようかなー」


 ブレアはともかく、フョークラはちょっと楽しそうにしているのは何か違う気がするのだが、正面から建物の中へ。

 中は受付カウンターのようなものがあり、髭面の男性が訝し気な目を向けて来る。


「いらっしゃい。見ない顔だが……っ!? 十字架のブレアがうちに何の用だっ!?」

「クックック。私の事を知っているのか。ならば話は早い。悪を潰しに来たのだ」

「ま、待てっ! 一体、何を根拠にうちを悪だと言い張るんだ? それに、うちに手を出したら、アンタといえども面倒な事になるぜ?」

「クックック……クケェーっ! 根拠だと? まだ聞いていないのか? 先程、街の西門付近で、攫われてきた五名のドワーフがお前たちの馬車から見つかったのだ!」

「は? い、いや、そんなハズはねぇ。騎士団の上の連中に聞いてみろ。今頃、何かの間違いだったという話になっているはずだ」


 なるほど。騎士団の上層部にメリナ商会と手を組んでいる者がいて、今まで揉み消してきたという事か。

 やはり、騎士団も潰した方が……いや、普通の騎士も半数はいるからな。


「クケケェッ! そのドワーフたちを馬車から見つけたのは私だっ! 言い逃れできると思うなっ!」

「チッ……馬鹿な事を。それに……ここが何処だかわかっているのか? この国では、俺たちに逆らう奴が一人や二人居なくなったところで、何にも咎められねぇんだ! おい、お前ら! こいつらを生きて帰すな!」

「ケェーッ! いいぞ! わかりやすい悪だ! それでこそ潰し甲斐がある! 正義の力を思い知るが良い!」


 そう言って、ブレアが剣を抜き、カウンターにいる男に向かって走る。

 男もカウンターの中から、剣を取り出したので、先ずはブレアとフョークラ、モニーに防御スキルを使う。


「≪ディボーション≫」

「父上。私にまで?」

「もちろんだ。ひとまずモニーは俺の背中に捕まっていてくれ。極力、静かに倒すけどな」

「そうですね。この程度の相手……父上の敵ではありませんからね」


 とはいえ、敵の拠点に乗り込んだだけあって、奥からわらわらと武器を持った者たちが出てくる。

 フョークラが右手の通路に向かったので、俺は左手から現れる奴らを倒すか。


「子連れで殴り込みとは、いい度胸じゃねぇかっ! その娘は特別顧客に高く売ってや……ごはっ!」

「えっ……うごぁっ!」

「ちょ……嘘だろ!? どうやったら、人がこんなに吹っ飛んで……うわぁぁぁっ!」


 しまった。モニーに向かってふざけた事を言って来たから、思わず力が入ってしまった。

 とりあえず、直接殴った男には治癒魔法を掛け、通路というか建物自体を破壊しておいたから、こっちからはもう来ないだろう。

 ブレアは……互角の戦いをしているが、やや押され気味か?

 ただ、今はフョークラが先だ!


「フョークラ! 大丈夫か? やり過ぎてないか!?」

「アレックス様! 大丈夫です。折角なので、最近新しく作った薬を試していこうと思っていまして」

「……あそこに全身緑色になっている男が居るんだが」

「あれは、身体中にカビを生やす薬です。死にはしないと思います……たぶん」


 よく見ると、その奥には身体中にキノコが生えている男とか、ずっとピクピク痙攣している男とか……そして、その男たちを見たからか、その奥にいる男たちが完全に引いている。

 まぁ気持ちはわからないでもない。

 まだ左側の通路で、俺に殴られた奴の方がマシな気がするくらいだ。


「あのー、早く来てくれませんかー? 次は、男性のアレが不能になるだけの毒ですよー。痛くも無いし、死ぬ事もありませんからー」

「このクソ女っ! てめぇは鬼かっ!」

「鬼? オーガって事ですか? いえ、私はダークエルフですー!」


 いや、そういう話をしている訳ではないと思うのだが……とりあえず、フョークラに向かって行こうとしている者は居ないようなので、ブレアのところへ戻ると、


「はぁぁぁっ! 正義の力を我が剣にっ! ≪セイクリッド・クロス≫」

「くっ! わざわざ口上を述べないと力が出ない奴に負けるなんて……」


 あ、ブレアは何か叫んでからスキルを使う事が多いと思っていたが、言葉で自分を鼓舞するタイプって事か。


「クックック……見たか、正義の力を!」


 ブレアが剣を掲げて叫んでいるが……よっ!


「ごはぁっ!」


 部屋の外からブレアに向かって短剣を投げようとしている奴がいたので、近くにあった椅子を投げておいた。

 ただ、そんなに力を込めていないのに、男にぶつかった途端に椅子が四散したんだが……まぁ壊れていたんだろう。

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