第640話 分身の正しい使い方
「ふふ。温泉で……というのもなかなかなのじゃ」
「そうだねー! プルム、いっぱい分裂しちゃったー!」
「やっぱり、そうなったんですね……貴方。私にもしてくださらないと、不公平ではありませんか?」
ニースが作った温泉施設で色々あった後、滝の下でグレイスに船を出してもらい、ラヴィニアとも合流した。
まぁそのミオやプルムたちは温泉が良かった言っているが、俺はつい最近魚村の露店風呂で……げふんげふん。
また揉めそうなので、黙っておこうか。
「とりあえず、やっと西へ向かえるな」
「けど、貴方。幾らレヴィアさんの泳ぐ速さをもってしても、もうすぐ夕方よ。流石にどこかで休んだ方が良いと思うんだけど」
「まぁそうだな。流石に、このまま西の大陸まで行くというのは無茶だな」
アマゾネスの村を朝一で出発したはずなのに、どうして夕方近くになって、まだ北の大陸から出られていないのだろうか。
そんな事を若干思いつつも、第四魔族領から北の大陸へ来た時の事を思い出す。
レヴィアの泳ぐ速度をもってしても、大陸から大陸への移動は数日かかったし、北の大陸の西にある街で宿泊して、明日の朝から再出発というのが理想だろうか。
とはいえ、この辺りは上流に近いからか、河が小さく、レヴィアが本来の速度を出せていないように思える。
西にある街とは言わず、この河沿いに街があったら、一旦そこで宿泊するのもやむを得ないかもしれないな。
「あ! パパー! あのね、メイリンママがね、サムエルっていうむらにいってほしいってー」
「ん? 何かあるのか?」
「うん。いけばわかるってー」
ユーリがメイリンの言葉を伝えてくれたのだが……何故メイリンが北の大陸の村の事を知っているのだろうか。
いや、知っている訳がないから、誰かの人形の情報か?
もしくは、第一魔族領で何らかの情報を得た誰かが、人形経由でメイリンに何かを伝えたという事だろうか。
カスミ辺りが情報収集してくれたという可能性はあるな。
「ユーリ。そのサムエルっていう村がどの辺りにあるか、聞く事は出来るか?」
「ちょっとまってねー。……えーっと、おおきなかわのみなみがわにある、もりのなかだってー!」
大きな河の南側にある森の中……この河の事か?
しかし、岸の位置が高すぎて船の上からでは、森かどうかというのがイマイチわからないんだよな。
「……そうだ。今こそ分身を使う時だな」
「アレックス。またしてくれるの? さっきの温泉で私も足腰がガクガクしているんだけど……そういう事なら頑張るよ?」
「私もいたしますの! 私には温泉は熱くて、本気が出せませんでしたの」
分身を使うと言っただけで、ザシャとシアーシャが反応したけど、違うからな?
本来のあるべき分身の使い方をするんだ。
「プルム。悪いが少し手伝ってくれ」
「はーい! いただきまーす!」
「違う違う違う! ほら、以前プルムに変形してもらって、岸の上まで跳んだだろ? あれをしたいんだ」
「それは構わないけど……アレックスが船から降りるなら、レヴィアに止まってもらわないといけないよねー?」
「いや、俺は船に乗っているよ。そうではなくて、分身を一体だけ出して、偵察に行ってもらおうと思ってさ。分身なら、離れても消せばすむし」
カスミやサクラが使っている、本来の分身の使い方をして、一定間隔で分身を南側に飛ばしてみようと思う。
それでサムエルの村っていうのがあればレヴィアに止まってもらい、なければ分身を消せば良いだけだ。
ただ問題は、いつもの自動行動ではないので、俺が分身を上手く動かす事が出来るかどうかだが。
という訳で、船の中に座ると、一体だけ分身を出す。
「プルム、頼む」
「わかったー! いいよー!」
「すまない。行って来る……はぁっ!」
プルムにジャンプ台となってもらい、俺の分身が南側の岸へ。
よし! 良い感じだ。
目を閉じ、分身の視界で分身の身体を動かす感じで、南側へ走って行く。
カスミやサクラのように、俺自身が動きながら分身も動かす……というのは流石に出来ないが、座って目を閉じていれば、一体だけ分身を任意に動かす事は出来るみたいだな。
「……って、何か変な感じがするんだが。誰か……これは、ミオか!?」
「おぉ、流石なのじゃ。よく我だと分かったのじゃ……んっ! も、もう少し……ちゃんと交代するから、もう少し待つのじゃ」
いや、目を閉じて座っている俺の本体に、何をしているんだよっ!
気を抜くと分身の制御を失いそうなので、ミオを止める事も出来ず……温泉であれだけしたのに、目を閉じて座る俺の前に待ち行列が出来ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます