第641話 大きな森

 ミオに続きザシャに襲われながら、何度か新たに分身を出し、次に交代したグレイスが満足したところで、遂に森を見つけた。

 だがレヴィアが高速で船を引いてくれている為、慌てて分身を解除し、レヴィアを止めるべく船の外へ。


「レヴィア、一旦止まってくれ! 上陸したいんだ!」

「~~~~っ! あ、アレックス様! 座っていたのに、突然立ち上がって走りだしたりしたら……ふ、不意打ちはらめぇれすぅ」

「あーっ! 貴方! またグレイスさんと! 私は温泉でもしてもらっていないのにっ!」


 グレイスがぐったりし、水中に居たラヴィニアが頬を膨らませるが、ひとまず船を止める事は出来た。

 レヴィアが元の姿に戻って船の上に上がって来ると、


「……アレックス。次はレヴィアたんの番。ここまで頑張った」

「あなた! 私もっ! 私は全然していただいておりませんよっ!」

「待って欲しいですの! グレイスさんの次は私の番の予定なんですの!」


 俺たちを見て、レヴィアとラヴィニアとシアーシャが、それぞれ視線を絡め合う。


「ま、待ってください。あ、アレックス様が分身してくだされば、全て解決する話で……すっ!」

「いや、そもそも探索中に変な事をしてくる方が間違っているからな?」

「……そう言いながら、あなたが未だにグレイスさんを抱きかかえられているのはどうしてかしら?」


 ぐったりしたグレイスと、ジト目のラヴィニアに挟まれつつ、とりあえずザシャに船を岸の上へ上げてもらった。


「よっと。やっぱりアレックスに魔力を貰えば、船を持ち上げて飛べるな。通常時はこんな事を出来る気がしないからね」

「……つまりザシャもアレックスにしてもらった。レヴィアたんは?」

「……さ、サムエルの村っていう所に着いたらで頼む」


 レヴィアにもジト目を向けられ、後で……と約束して、グレイスに船を空間収納で格納してもらった。

 レヴィアの泳ぎが速くて少し森から離れてしまったが、見えてはいるので、このまま皆で歩いて行く。

 ただ、ラヴィニアを俺が抱きかかえている事にレヴィアがズルいと言い、ユーリと一緒に俺の背中にくっついているが。

 それから少し歩いて森の中へと入ったのだが……かなり広い森で、村が見つけられない。


「ユーリ。サムエルの村が、森のどの辺りか聞けるだろうか」

「まってねー。……えーっと、もりのまんなかだってー」

「真ん中……仕方ない。奥に向かって進んでみるか」


 既に夕方になってしまったので、早くしないと真っ暗になってしまう。

 そうなると、シアーシャは夜目が効くらしいが、それ以外の者が困るからな。


「しかし、森は魔物が多いイメージなんだが、現れないな」

「……アレックス。それは、アレックスがおんぶしているレヴィアのせいだよ」

「え? ……あー、なるほど」


 強い魔物ならともかく、弱い魔物はレヴィアの力を感じたら逃げるか。

 河でも殆ど魔物に遭わないもんな。

 ……もしかしたら、水中の魔物はレヴィアやラヴィニアが倒してくれていただけかもしれないが。


「アレックス様。右手に不思議な力を感じます」

「ふむ。じゃあ、そっちへ行ってみるか」


 シアーシャの言葉で進路を変え、何か感じる……という方向へ行ってみると、森の中で何かの気配を感じた。


「何かいるな……上か?」


 上に目をやると、大きな木が枝を張り巡らせていて……やはり何かの気配を感じる。

 普通の魔物ならレヴィアの力を感じて逃げるはずだが、逃げるというよりこちらの様子を伺っているような感じだな。

 ただ、敵意は感じられず、どっちかって言うと、隠れてやり過ごそうとしている感じか。


「どうされますか? 私が感じた不思議な力は、もう少し奥ですが」

「……アレックス。レヴィアたんが吹き飛ばそうか?」

「とりあえず、レヴィアの攻撃はやめておこう。森が消えてしまう」


 どうしたものかと考えていると、突然木の上から何かが落ちて来た。


「アレックス様ぁぁぁっ!」

「この声と、そのマントは……フェリーチェ?」

「はいっ! お会いしたかったですぅぅぅっ!」


 ムササビ耳族のフェリーチェが、見事に滑空してきて、横から抱きついてきたかと思うと、


「ご、ご主人様っ! わ、私も抱きつきたいっ! というか、抱いて欲しいっ! そして、誰か降ろしてーっ!」


 木の上から自力で降りようとしたらしいモニカが、その途中で動けなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る