挿話157 突入オティーリエ

「待ってー! アレックスのところへ行くなら、マリも行きたーい! 連れてってよー!」

「それなら、私だって行きたいです! ダークエルフの毒が何かに役立つかもしれませんし」

「ふむ。ならば、皆で行くのじゃ。ドワーフの女性たちも居らぬ今、暴れても問題ないのじゃ」


 竜の姿に戻ろうとしたら、馬車に居る女性たちからついて行きたいという声が上がる。

 流石はアレックス。伊達に、皆を毎晩満足させている訳ではないわね。

 敵の本拠地だというのに、皆が皆助けに行きたいと言うなんて。


「わかったわ。でも皆で一緒に行くのは構わないけど、降りる時はどうしましょうか。私一人なら、あの街の壁を越えた後、着地出来る高さで人の姿に変身するつもりだったんだけど」

「なるほど。あの街の中に、丁度良く降りられるような場所があるとは限らぬという事じゃな?」

「えぇ。その通りよ」


 とはいえ、街の門を破壊して正面突破という手段を取ったとしても、負けないとは思うけど。


「オティーリエさん。ブラックドラゴンの姿のまま、メリナ商会の本部の上に降りるというのは、どうでしょうか。建物もろとも破壊出来て、時間短縮です」

「モニーちゃん。メリナ商会の本部には、攫われたドワーフたちが居るかもしれないから、それはダメよ」

「残念です」


 モニーちゃんの、いち早くアレックスを助け出したいという気持ちは分かる。

 だけど、そもそもの救助対象であるドワーフたちや、ブレアとモニカを傷付ける事になったら、絶対にアレックスが怒ると思う。

 それも、私たちに怒りが向けられる訳ではなく、アレックスが自分自身に怒りそうだし。


「じゃあ、ミオの結界を張りながら飛び降りるとか……」

「外からの侵入を防ぐ事は出来るが、今回のような使い方は無理なのじゃ。それより、グレイスの空間収納で大きな布を出して、フワフワとゆっくり落下すれば良いのじゃ」

「それを手で出来るのはアレックス様くらいです」


 いろんな意見が出たものの、公園とかの何かしらの開けた場所があるだろうと、とりあえず飛んでみる事に。

 竜の姿になり、皆を背に乗せて夜空へ舞う。

 本の少し飛ぶと、あっという間に大きな街が眼下に映る。

 街を見下ろし……あった。街の中心近くに、周囲を建物に囲まれつつも、十二分に広い空き地がある。


「皆、降りるよ。しっかりつかまって」


 今の高度なら気付かれる事は早々ないと思うけど、降りれば降りるほど見つかる可能性が高くなる。

 なので、降下から着地はスピード勝負だ。

 ミオが外に出ない結界を張ってくれているそうで、誰かが宙に放り出される事は無いと聞いているので、全速力で急降下し、無事着地した。


「よし、行くよ! 皆……何をしているの?」


 地面に降りたので、早く地面に降りてほしいのだけど、グレイスとフョークラが降りてこない。

 その一方で、マリーナは凄く喜んでいるし……何かあったのだろうか。


「あのね、あのね! すっごく楽しかったー!」

「それは良かったわ。けど、グレイスとフョークラはどうしたの?」

「うむ。その二人は気絶しているのじゃ」


 気絶!? えっ!? こっそりアレックスの分身と一緒に居たの!?

 それはズルくない!?


「残念ながら、オティーリエが考えているような事ではないのじゃ。単純に恐怖だったのじゃ」

「えっ!? もしかして、高所恐怖症とか?」

「いや、あの高度からの急降下はダメなのじゃ。普通に落ちるよりも速いと思うのじゃ。喜んでいるのは、マリーナだけなのじゃ」


 あー、空を飛ばない種族は……って、マリーナも飛ばないでしょ?

 とりあえず、背中に手は回らないので、起きているミオとマリーナとモニーの小柄な三人組に頑張ってもらい、二人を地面に下ろしてもらった。

 これで、ようやく人の姿に戻れる……というところで、少し離れたところから人間の声が聞こえてきた。


「ほ、本当にいたぞっ! どうして騎士団の訓練場にドラゴンが居るんだっ!?」

「お、おい! ドラゴンの近くに子供がいるぞっ!? 君たち、そこから急いで逃げるんだっ!」

「くっ! 私が子供たちを救助します! 援護をっ!」


 え? 騎士団の訓練場!? 街の中心近くに随分と広い空き地があるとは思ったけど……って、馬に乗った女性騎士がこっちに向かってこようとしている!?

 ……うーん。もしかして、やらかした?

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