第94話 記憶喪失? のソフィ

「マスター。今の世界からすると変かもしれませんが、暫くは服を着る事を許可いただけますでしょうか」

「マスターって、俺の事……だよな? いや、むしろ着てくれ。その、今の俺たちが異常と言うか、普段はちゃんと服を着ているから」


 一先ず、今の状態は宜しくないので、サクラに脱がされた服を着ると、


「服を着る文化レベルなのに、男女問わず全員で裸に……つまり、マスターと奥様たちは全員変態という事ですね」

「いやその……胸を張って否定出来ないのが辛い」

「ご安心ください。そんな変態なマスターでも、私はきちんと従います。ただ、私に手を出そうとすると、暴走する可能性がございますが」

「いや、しないから。というか、タイミングが悪かっただけで、普段はこんな場所ではしないから」

「……」


 ソフィにジト目を向けられてしまった。

 と、とりあえず話を変えよう。


「ところでソフィは、この洞窟に住んでいるのか?」

「私はマスターと共におりますが」

「あ、いや。だから、マスターっていうか、俺と会う前の事なんだが」

「マスターと出会う前……ですか? いえ、残念ながらそのようなデータはありませんが?」

「データ? 何の事か分からないが、さっき俺たちと戦っただろ? その前だよ」

「マスターと戦った? ……誰がですか?」

「ソフィだよ」

「……? 私がマスターと戦うなど、有り得ません」


 ソフィが理解出来ないと言った様子で、小首を傾げて困っている。

 うーん。ほんの数分前の事なんだけど……何か俺に言えない事があって隠しているのか?

 でも、とぼけているようには見えないんだよな。

 とはいえ、この数分の間で記憶喪失になるとは思えないし。


「あ! もしかして、マスターが私を無理矢理襲おうとしたという事ですか? その場合ですと、暴走も否定が出来ません」

「襲おうとは思っていないが……まぁソフィには、変質者って言われたな」

「全裸でしたしね」

「その時、赤い光を放つスキルを使って攻撃されたんだけど」

「赤い光……ですか? 該当しそうな攻撃は、熱光線かと思われますが、いくら暴走していたと言っても、マスターに向けて放つ攻撃ではないかと」


 いや、俺に向かっては攻撃されていないけど、サクラがそれで二回攻撃されているんだが。


「じゃあ、ソフィが呼んだ防衛装置とかって言うのは? 大きな鉄の塊がやってきて、白い光の攻撃を何度もしてきたんだが」

「……すみません。それについては、該当するデータがありません。何の事を仰っているのでしょうか?」

「……いや、いいや。わかった。この話は一旦止めよう。じゃあ、ソフィの事を教えて欲しい」

「はい。私は、マスターに仕える魔導少女です」

「魔導少女って?」

「魔力によって動く、人間であって人間とは異なる存在です」

「魔法人形みたいな物か?」

「いえ、魔法人形とは根本的に異なります。魔導少女です」


 ……これは何かのクイズなのだろうか。

 魔力で動くが、魔法人形ではない……まぁ確かに、ゴーレムには俺の命令が効いていたけど、ソフィには聞かなかったもんな。

 でも、人間であって人間とは異なる存在って何だ? 全く分からない。

 どうしたものかと思ってエリーやニナに目を向けると、無言のまま首を振られてしまった。


「えーっと、じゃあソフィは何歳なんだ?」

「私は……十五歳という仕様になっております」

「仕様? というか、十五歳っていうのも微妙じゃないか? 十二歳くらいに見えるんだが」

「いえ、十五歳です。しかしながら、マスターが十二歳がお好みというのであれば、設定変更が可能です。流石に容姿は変更不可ですが、性格や言動を十二歳に変えられます。設定を変更いたしますか?」

「よく分からないけど、変えなくて良いよ。今のソフィのままで頼む」


 俺が十二歳で……と言ったら、ソフィは十二歳の子供を演じ続けるつもりだったのだろうか。

 というか、容姿が十二歳くらいだから、今が無理して喋っているようにも見えなくもないが。

 一先ず、これ以上の探索は一旦諦め、ソフィを連れて家へ戻る事にしたのだが、


「マスター。未だ暫くは大丈夫ですが、私の魔力残量が二十パーセントを切っております。何らかの方法で魔力の供給をお願い致します」

「わかった。とりあえず、魔力があれば良いんだな? ……≪シェア・マジック≫」


 魔力が必要だというので、すぐにパラディンの魔力譲渡スキルを使用する。

 すると、


「ありがとうございます、マスター。今の方法でも良いのですが、出来れば今後は、私を起動した際に魔力を注いだ方法でお願い出来ないでしょうか? 起動時の方法が最適な魔力供給方法となるように、自動で設定調整がされていますので」

「起動時の方法? すまん、何の事だ?」

「何かは分かりませんが、マスターの魔力を口から飲ませていただき、体内へ入れていただいたかと。その方法が、最も効率が良いのです」

「ソフィに飲ませたっていうと……あ、アレの事かっ!? ……と、とりあえず、暫くは俺のスキルで魔力を譲渡しよう。うん、魔力が減ってきたら、また声を掛けてくれ」

「……? 畏まりました」


 ソフィがとんでもない事を言って来て、エリーたちからジト目で見られてしまう事になってしまった。

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