挿話115 悲しみのギルド見習い職員ティナ

「あぁっ! 大変ですっ! この豊潤で芳しい香りは……アレですっ!」

「……本当だっ! 急がなきゃっ! ……嬉しいけど、いつも急に来るんだよね」

「今回は、シェイリーさんの予想も無かったですもんね」


 部屋で日誌を書いていたら、部屋の外から突然フィーネさんとテレーゼさんの声が聞こえて来た。

 何だろう。気になる……けど、ちゃんと報告書を丁寧に書かないと、タバサさんに怒られちゃう。

 まだまだ時間がかかりそうな日誌を書いていると、窓の外を小さな女の子が走っていく。

 あれは……確か、ソフィちゃんだったかな?

 魔導列車っていう凄い乗り物を作った女の子だよね。


「何とかしてマスターの所へ行く方法を……いえ、今は魔力補給が優先。設計は後……」


 マスターって、アレックスさんの事だよね?

 魔力補給っていうのが何かは分からないけど、ソフィちゃんには魔導列車みたいに凄い乗り物を作って、アレックスさんの所へ行けるようにして欲しい。

 何でも、大昔に魔王と戦った神獣の玄武さんっていう方が大ピンチらしくて、船で北の大陸へ向かってしまった。

 普通に考えたら、この第三魔族領のある東の大陸からだと、船で十数日はかかるはずだから、まだ船の上だろう。

 うー……アレックスさんの事を考えていただ、どんどん胸が苦しくなってきた。

 会いたい……アレックスさんに会いたいな。あの大きな手で、また頭を撫でて欲しい。


「まったく……どうしてウチは飛んで行っちゃダメなんよ! それに、来る頻度が少なすぎるんよ! 前みたいに、毎日してくれないと困るんよ!」


 アレックスさんの笑顔を思い浮かべて居たら、ヴァレーリエさんの大きな声が聞こえてきて、一気に掻き消されてしまった。

 うーん。でも、ヴァレーリエさんは竜人族だから、文句を言った瞬間、大変な事になっちゃうから、黙っておこう。

 まぁそもそも、私が文句を言えるような方なんて、ここに一人も居ないけど。

 毎日ギルドのお仕事で、エリーさんたちからお話を聞いて、日誌に纏めているだけだもんね。

 他の人たちはちゃんと働いて、作物とかを収穫していたりするのに、私なんて宿でご飯とお風呂をいただいて……あ! お風呂といえば、アレックスさんと一緒に入ったっけ。

 い、今考えたら、私ったら何て大胆な事をしているんだろう。

 どういう訳か、アレックスさんの近くに居ると、大胆になっちゃうんだよね。


「うふふ。久しぶりに、思いっきり突いて貰えるわねー! うふふふっ」


 よく分からないけど、ステラさんがスキップしながら、みんなと同じ方向へ向かっている。

 突いてもらえる? 何の事だろう? でも、ステラさんが凄く嬉しそうだったし、きっと良い事なんだろうな。

 私もちょっと覗きに行ってみようかな? あっちの……南の家って呼ばれてる、レイさんたちの研究室がある場所だよね。

 ……レイさんと言えば、あの凄いポーションはどうする気なんだろう。

 そうだ! レイさんのポーションの事を日誌に書き忘れてた!

 タバサさん、信じてくれるかなー? シーナ国で物凄く流行っているマジック・ポーションを、この魔族領で作っているって。

 でも、材料って何なんだろう? 聞いたら教えてくれるのかな?


「わーい! 久しぶりだねー!」

「うんっ! ボク、楽しみー!」

「あはは。僕も嬉し過ぎて、早くも大変な事になっちゃった」


 今の声は……ニナさん、ノーラさん、コルネリアさんの、ちびっこ三人組みたいね。

 まぁちびっこって言いながらも、容姿は私と変わらないんだけどさ。

 あの中ではノーラさんが一番積極的だからなー。

 私もノーラさんみたいに、無邪気にアレックスさんへ抱きつきたい!


「もーっ! 来たんなら、来たって教えて欲しいよねー!」

「そうですわね。でも、何やら今回はいつもと違って、分身が八体しか居ないのだとか」

「えーっ!? そんなの取り合いになっちゃわなーい!? ヴァレーリエさんとかー、体力があり過ぎるんだよねー。あとはソフィさんとかー、フィーネさんにテレーゼさんとかもー」


 今度はユーディットさんにメイリンさんにボルシチさん……うぅ、やっぱり気になるっ!

 うぅぅ……どうして私ったら、こんな時に限って、日誌を五日分も溜めちゃってたんだろ。

 私も行きたいよぉぉぉっ!

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