第722話 馬車購入

「ひとまず、馬車の荷台を売っている店なら見つけたんだ。それで、この国の貨幣を得る為に売る物資をグレイスが持っているだろ? それで探しているんだが……」

「うーん。ウチらと一緒に行こうとしたんだけど、何故かあの三人と別行動になってしまったんよ。だから、今どこに居るかはわからないんよ」


 ヴァレーリエにグレイスの居場所を聞いてみたが、別行動だという答えが返ってきてしまった。


「全く。協調性がないというのは困るな。何かあった時に迅速な対応が出来ないじゃないか」

「そうですの。幾ら街の中を探すとはいえ、連絡手段なしに別行動はよくありませんの」


 ヴァレーリエの後ろからやってきた黒い塊、ザシャとシアーシャも意見を言うが……何というか、このザシャの闇が目立ち過ぎるから、グレイスたちは別行動にしたのではないだろうか。

 いや、あくまで俺の予想だけどさ。


「仕方がない。グレイスを探すか」

「ちょっと待つんよ。……はい、これ」

「ん? この紅い半透明なものは何だ?」

「ウチの鱗なんよ。ドラゴンの鱗は高く売れるから、それ一枚で馬車くらいなら買えると思うんよ……たぶん」


 なるほど。俺の顔くらいある、赤みがかった半透明のこれは、ヴァレーリエの……レッドドラゴンの鱗なのか。


「……って、こんな物を売ってしまって良いのか?」

「んー、人間で言う髪の毛みたいな物だから、全然大丈夫なんよ。意図して抜こうとしたら少し痛いけど、昨日の戦いの後に何枚か落ちているのを見つけたから、拾っておいたんよ。またすぐに生えてくるし、持っていても仕方ないから売って構わないんよ」

「そうか、すまない。ありがとう」

「全然良いんよ。ただ、ウチの鱗は成竜の鱗よりも小さいんよ。そのせいで思っているより価値がないかもしれないんよ。……まぁまだ五枚あるけど」


 ヴァレーリエから鱗をもらったので、買い取ってくれそうな店を探そうとして……どこで買い取ってくれるんだ?

 冒険者ギルドなら買い取ってくれそうな感じもするが……西大陸の街でギルドを見ていないんだよな。

 というか、そもそも俺たち以外の人間も見ていない気がするし。

 ひとまず、先程の馬車の店へ戻りながら、途中で買い取ってくれそうな店があったら寄ってみよう……と思っていたのだが、そういう店が見つかる事なく、目的の店に着いてしまった。


「仕方がない。ここで買い取れないか聞いてみるか。すまない。ちょっと良いだろうか……」


 先程の店主にドラゴンの鱗を買い取れないかと聞いてみると、


「ふむ。レッドドラゴンの鱗か……耐熱性があって丈夫だが、その分加工が難しい素材だな。防具職人には売れるかもしれん。そうだな……三枚あれば、馬車の代金と同じくらいってとこだ」

「わかった。では、これを」


 一枚では足りなかったが、ヴァレーリエの言っていた通り買い取ってくれて、代金と相殺してくれた。


「確かに受け取った。では、馬車はこっちだ。ついて来てくれ」


 ヴァレーリエに礼を言い、店主について行って店の裏手へ行くと、既に整備済みだという、注文通りの馬車が置かれていた。


「足回りと椅子のグレードが最上だが、通常より椅子が重いので、それに耐えられるように車体も頑丈な馬車だ。整備も済んでいる」

「ありがとう。助かるよ」

「車体は重いものの、壁と屋根は幌だから馬が二頭いれば引けるだろう。出来れば四頭が望ましいがな」

「そうか。ちなみに、馬は……」

「この街の南西に牧場があるから、そこへ相談してみると良いだろう。馬が決まるまで馬車をここに置いておいても良いし、牧場へ馬車に持って行って馬を確認したいなら、うちの若い奴らに運ばせるぞ?」


 店主の言う通り、実際に馬車を牧場まで運んで、馬を確認してみる方が良さそうだ。

 だが、大きな馬車だが、これくらいなら……うん、いけるな。


「いや、この程度なら俺一人で引けそうだから、このまま俺が引いて行くよ」

「……いやいや、何を言っているんだ? 確かにアンタはガタイが良いし、力も体力もありそうだが、馬二頭で引く馬車を一人でだなんて……はぁっ!?」

「実は、体力と腕力はそこそこあるんだ。じゃあ、このまま行くよ。ありがとう!」

「ま、まいどあり……」


 俺が手で馬車を引いていると、何故か隣をツェツィたちが歩いていたので、馬車に乗ってもらう。


「せっかく買ったんだ。俺なら全く問題無いから、全員乗ってくれ」

「わー! 椅子がフカフカー! お母さーん! 凄いよー!」

「あらあら、本当ねぇ。こんなにフカフカで、広さも十分で、周囲から遮られているという事は……移動しながら色んな事が出来そうね」


 ツェツィとナターリエが一番に乗り込み、嬉しそうにしているのだが……背中に視線を感じると共に、変な汗が流れ落ちるのは何故だろうか。

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