第721話 乗り物探し

「さて。このまま徒歩というのも大変だし、この街で何か乗り物を見つけようか」


 ミオたちと合流して朝食を済ませた俺たちは、宿に泊まった組で二手に分かれ、街の中で乗り物を探す事に。

 理想は買い取れる物が良い。

 最悪、南へ向かう乗合馬車などでも良いのだが、何か見つけたとしても、俺たちの意志でそちらへ移動出来ないからな。

 ひとまず、何か無いか……と街中を探し回り、馬車の荷台を作っている店を見つけた。


「すまない。少し話を聞きたいのだが」

「ん? 客……か?」

「あぁ。購入の意志はある。南へ行きたいのだが、ここでは個人で購入も出来るのだろうか」

「もちろん可能だ。運ぶ物は、荷物かい? それとも人かい?」

「人だな。十人以上乗れるものが良いな」


 店主の男性に話し掛けると、ついて来るように言われたので、店の奥へ。


「この辺りにあるのは、全て人を運ぶための座席が付いている。その座席分車体は重くなるし、荷物は乗せ難くなるぞ」

「なるほど」

「あと、作りも壁や天井を木材ではなく、幌の物にした方が馬車を引く馬の負担は減るだろう。十人以上乗るなら、出来れば二頭立て以上の馬車の方が良いだろうな。まぁ一頭でも引けなくはないが」


 そういえば、以前にカスミと一緒に馬車を買った時は、四頭立てのものだったな。

 ただ、あれはもっと重厚で頑丈な造りだったが。

 あの時は、店主のオススメをそのまま買わざるを得ない状況だったが、今回は特にこだわらなくても良いのではないだろうか。


「ん……あれ? お客さん。もしかして、そっとの子供たちも馬車に乗る……よな?」

「あぁ。もちろんだ」

「うーん……奥さん。娘さんたちは乗り物は平気なタイプかい?」


 奥さん? 誰の事を言っているのか……と一瞬思ったが、今はナターリエとツェツィに、ディアナとユーリしか居ない。

 必然的にナターリエの事を指す訳で、


「そうですねー。そもそも馬車に乗った事がないですね」

「ウチも無いかなー」

「ユーリもー!」


 ナターリエが俺にくっつきながら答え、ディアナとユーリが続く。

 ユーリは乗った事があるような気もするが……まぁいいか。


「あー……この辺りの馬車は人が乗る用だから、それなりに衝撃が吸収される造りなんだ。ただ、もしも長距離移動をするのなら、衝撃吸収の性能を一段階高いものにするとか、椅子のグレードを上げるとかを考えた方が良いかもな」

「なるほど。その辺りのカスタマイズも可能なのか? 木の壁と天井は重そうなので、周りは布……幌で良いのだが」

「あぁ、そういうのはもちろん大丈夫だ。対応させてもらうよ」

「わかった。じゃあ、衝撃吸収と座席を一番良いものにしてもらって、重量はなるべく軽いもの……を頼む」

「それなら、少し整備すれば出せるから、少しだけ待ってくれ。あと、代金なんだが……これくらいかな」


 そう言って、店主が料金を提示してきたのだが……しまった。

 食料や水もそうだが、何かあった時に貨幣へ変える用の物資はグレイスの空間収納に入れているんだった。


「問題無い……と思うが、今別行動をしている者が財布を持っているんだ。探して来るから少し待っていてもらいたい」

「あぁ、構わんよ。こっちも整備の時間を貰うつもりだったしな」

「じゃあ、探してまた戻って来るよ」


 一旦店を出ると、次はグレイスを探す事に。

 獣人の街なので、グレイスやモニカは逆に目立つと思うのだが……


「あなた。探さなくても、何処に居るかはわかりますよ?」

「そうなのか?」

「はい。この街の中くらいの広さでしたら、レッドドラゴンのヴァレーリエさんの魔力が何処かわかりますし」

「なるほど。じゃあ、すまないが案内を頼む」

「えぇ。では参りましょう」


 ナターリエが俺の腕に抱きつきながら歩き出す。

 それを見たツェツィが、真似して反対側の手に抱きついてきて、ディアナが俺の胸に自ら登り、ユーリが背中に抱きつく。

 ……これは一体、何の修行なのだろうか。

 そんな事を思いながら歩いて行くと、大通りに出たところで人が左右に分かれ、一斉に道を空ける。

 馬車でも通るのかと思ったら、黒い塊が動いていて……


「アレックス! この街、乗り物が売ってないんよ」


 ヴァレーリエが走り寄って来た。

 あぁ、後ろの黒いのはザシャとシアーシャか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る