第20話 出会ってしまった幼馴染のエリーと美少女エルフのリディア……と、部屋の隅で小さくなる俺
「アレックスさん。ありがとうございます。これで美味しい煮物料理が作れますっ! ただ本当は、出汁が取れる食材があれば、もっと良いんですけどね」
ニナが深手の鍋を作ってくれた後、リディアが料理に是非欲しいと言うので、新しくブロッコリー畑とニンジン畑を作り、早速収穫してきた。
「へぇー。この畑って、お兄さんとリディアがこんな風に作ってたんだ。でも、おんぶで移動しているのはどうして?」
「あぁ。精霊魔法を使うには、魔力が大量に必要なんだよ」
「そうなんだ。でも収穫が終わったのに、どうして今も、おんぶしたままなの?」
「あ、しまった。また忘れてた」
前にリディアをおんぶしたまま魔物と戦ってしまった事もあるし、本当に気を付けないとな。
指摘してもらったのでリディアを地面に降ろすと、
「じゃあ、次はニナの番だね! お兄さん、おんぶー!」
「ど、どうしてよっ! ニナは土器が乾くまで暇だからって、ついて来ただけでしょ? 何もしていないじゃない」
「でも、一番端の畑から小屋まで遠いもん。ニナは、二人より背が低いから、歩幅も小さいし、疲れるの!」
問答無用で今度はニナが俺の背中に飛び乗ってきた。
「まぁニナもリディアも軽いし、別に俺は苦にならないから構わないぞ。二人より圧倒的に俺の方が体力もあるしな」
「ほら、お兄さんもこう言っているし、いいじゃない」
「……別に体力がどうとかって話じゃないんですけどね……」
リディアが小声で何か言っているのは聞き取れなかったが、真っすぐ南に向かって開拓しているせいか、一番新しい畑から小屋まで距離があるのは事実だ。
そのうち、向こう側に休憩所的な、簡易な小屋を作っても良いかもしれない。
とはいえ、作る為の材料がリディアの精霊魔法で出してもらう石しかないので、実現は難しそうだが。
そんな事を考えながら、小屋まで戻って来て扉を開けると、
「アレックス! おっかえり……え? その、おんぶしている女の子は……誰!?」
「え? エリー!? どうして、ここにっ!?」
「お兄さん? その人は誰なのー?」
何故か大きく手を広げたエリーが小屋の中に居て、俺を……というか、俺の肩に顎を乗せたニナを見て固まる。
「ん? 今、聞き覚えの無い声が……って、アレックスさん! この女性は誰ですかっ!?」
「えぇっ!? あ、アレックス! ど、どういう事なのっ!? その女の人は誰っ!? ま、まさか……奥さんと娘!?」
「いや、俺は結婚なんてしてないし、こんな大きな娘が居る訳がないだろ……って、エリー? おーい、聞いているのか? エリー!?」
先ず、どうしてエリーがここに居るのかを聞きたい。
だが、俺の声が聞こえて居るのか居ないのか、エリーが俺を見つめたまま、ゆっくりと後ずさる。
「……そんなっ! 魔族領で寂しく独りぼっちで過ごして居るアレックスを、私が美味しい料理と、あんな事やこんな事で温めてあげるはずだったのに……誰よっ! アンタたちは一体、どこの誰なのよっ!」
「ちょっと待ってください! それはこっちの台詞です! 貴女が誰かは存じませんが、アレックスさんには私が居ます。美味しい料理も私が作っていますし、貴女が変な事をしなくても、私がアレックスさんに安らぎを与えているんですっ!」
「お、おい。二人とも、一旦落ち着いてくれ。先ずは話を……」
「「アレックス(さん)は黙ってて!」」
「はい……」
エリーとリディア……何故か二人から同時に凄い剣幕で怒られ、ニナと共に部屋の隅へ移動する。
「言っておくけど、私はアレックスと幼馴染なの。十八年間一緒に過ごしてきたし、その上同じパーティで寝食を共にしてきたんだからっ!」
「一緒に過ごした時間なんて関係ありません! アレックスさんは私の命の恩人なんです。アレックスさんの為なら、私は全てを捧げる気でいます。貴女の言う、あんな事やこんな事だって、これから私がしてあげるんです!」
「……という事は、まだそんな事をしていないのね? ふんっ! 言っておくけど、私はアレックスと一緒にお風呂へ入った事だってあるし、同じベッドで寝ていた事だってあるんだから」
「それなら私だって一緒です! 一緒にシャワーを浴び、一つの毛布で一緒に眠り……というか、互いに生まれたままの姿を見せあっていますから!」
「な、何ですってっ!? ズルい……じゃなくて、だったら私も脱ぐわっ! 言っておくけど、私は脱いだら凄いんだからーっ!」
部屋の隅で、ニナと共に三角座りをしていると、一体何がどうなったのか、エリーが服を脱ぎだそうとし始めた。
「ストップ! というか、二人とも本当に話を聞いてくれっ! そもそも、二人は何の話をしているんだっ!?」
「ふふ……アレックスさんに色仕掛けが通じるとでも思っているんですか? 幼馴染だなんて言っておきながら、アレックスさんの事を全然分かってないじゃないですか。それに、一緒に過ごしてきた時は関係無いとは言いましたが、そもそもたったの十八年で大きな口を叩かないでください」
「くっ、その耳……よく見たらエルフなのね。エルフからすれば十八年は短いかもしれないけど、人間の十八年はすっごく長いのよっ! その十八年の間、私はずっとアレックスだけを見続けてきたんだからっ!」
ダメだ。何の話をしているのか未だに意味不明だし、相変わらず俺の言葉が二人に届いていない。
仕方が無い。出来れば、こういう事はしたくなかったが……
「二人とも、先ずは俺の話を聞いてくれっ! ≪サイレンス≫っ!」
エリーとリディアに、沈黙状態とする中位の神聖魔法を使い、ようやく静かになった。
「お兄さん、ぐっじょぶ。とりあえず、ニナはお腹空いた」
「そうだな。先ずは、こんな止め方になってしまい、二人ともすまない。だが、一先ず俺はエリーと話をしたいから、申し訳ないけどリディア……先に食事を作って貰っても良いか?」
コクコクと頷くリディアに、沈黙を解除する魔法を使用すると、そのまま食材を置いている部屋の隅へと移動して行く。
「エリー。先ずは、話を聞かせて欲しい。構わないか?」
涙目になっているエリーが小さく頷いたので、沈黙を解除すると、
「うわぁぁぁんっ! アレックスーっ!」
「あぁっ! 抜け駆けはズルいですっ!」
「ニナだけ仲間外れはヤダっ!」
何故か三人から抱きつかれてしまった。
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