挿話8 何かに備えて準備をするアークウィザードのエリー
「エリー! 待てっ!」
「来ないでっ! 私はパーティから抜けたのっ!」
「そんな事、リーダーである俺が許さん! エリーは俺と一緒に居るべきなんだっ!」
男性の――ローランドの部屋から出ようとした所で、強引に腕をつかまれる。
本当にヤダ! アレックスなら、絶対にこんな事しない!
「離してっ! ローランド、貴方は勘違いし過ぎなのよっ!」
「勘違い? 違うね。ただの事実さ」
「きゃぁっ!」
腕を強く引っ張られ……狭い一人部屋の奥にあるベッドへ投げられた。
「な、何をするのっ!?」
「まったく。俺がとぼけてやったのを聞いていれば、こんな手荒な真似はしなかったのに」
「ローランド!?」
「知ってたよ。エリーがアレックスの事を好きだっていうのは。あんなもの、見れば誰だって分かる。気付いてないのは、愚鈍なアレックスくらいだろ」
「だったら、私がアレックスの所へ行っても良いでしょ!」
「バカだな。だから、あの言葉を事実に――エリーを俺の恋人にするんだよ。俺無しでは居られなくしてやるぜ」
そう言って、ローランドがベルトを……
「≪エクス・フリーズ≫っ!」
外そうとしている体勢で凍り付いた。
「これは立派な正当防衛だからっ! あと、炎の魔法じゃなくて、氷の魔法にしてあげた事に感謝しなさいよねっ!」
高位の氷結魔法を受けたローランドには聞こえては居ないだろうけど、言いたい事を言って部屋を出る。
まったく。好きな人に――アレックスにあんな事をされたら嬉しいけど、好きでもない人にされたら気持ち悪いだけだ。
でも、普段のアレックスなら紳士的だろうけど、今はケダモノ状態らしいから、再会した瞬間に襲われちゃうかも。いゃん、どうしよう。
一先ず、自分たちの――女性陣の部屋へ行き、
「ステラ、グレイスさん。私、今日でパーティを抜ける事にしました。今まで、本当にありがとう」
「エリーちゃん、ローランドは大丈夫なの?」
「うん。というか、ステラやグレイスさんも気を付けてね。パーティを抜けるって言ったら、ローランドがベッドに押し倒して来たの。だから、氷漬けにしてきたけど」
ローランドの話を聞いて、物凄く嫌そうな顔になった二人へ別れを告げる。
「短い間だったけど、お世話になりました。ローランドさんには気を付けます」
グレイスさんなら私みたいに返り討ちに出来そうだけど、ステラが心配だという事を話し、私の荷物を纏めてタバサさんの元へ。
「タバサさん。さっきの荷物と一緒に、アレックスの所へ送ってください」
「わかったわ。ただ一つだけ懸念があって、ついさっきモニカさんが来ていたの」
「あっ! そ、そうだ。モニカさんの事を失念してた」
アレックスの事を抜きにしても、同じ街を拠点にしているので、冒険者ギルドで時々見かける。
当然ローランドの事も知っているけど、そこに私の姿が無ければ、きっとモニカさんは、私がアレックスの所へ行ったと察するだろう。
「出来るだけ引き延ばしてみるけど、そっちに行かせないという保証は出来ないわ……物凄く強引なのよ。無いと思うけど、勝手に転送装置を使われたら、そっちへ行けてしまう訳だし」
「う……そ、そうなんだ」
「だから、エリーちゃんは出来るだけ早く……と言っても、アレックスさんから来ると思うけど、既成事実を作ってモニカさんを拒める理由を作っておいてね」
た、タバサさんまで既成事実を作れって言ってきたーっ!
ステラも同じ事を言っていたし、もしもアレックスがそういう事をしてこなかったら、私から誘わなきゃいけない……よね?
それから、街へ戻るのは最短で二か月後になるとか、必要な物があれば、可能な範囲で送ってくれるとか、報酬が土地だっていう説明を受け、
「あとは、この魔法陣へ入れば魔族領よ。アレックスさんと仲良く過ごしてね」
「分かりました。では、行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
魔法陣の中へ入ると、一瞬で視界が変わり、見た事の無い家の中に居た。
「ここがアレックスの住んでる家なんだ」
ぐるっと見渡して見ると、どうやら一部屋しかないみたいだけど、二人で暮らすには十分な広さかな。
けど、五人以上だと狭く感じそうだから、子供は二人まで……いやいや、その頃には新居に居るよねっ!
とりあえずアレックスは外出して居ないみたいだし、魔物が出るって聞いているから、私は家で待っている方が良いよね。
「そうだ。今日買った下着に着替えておこうかな。な、何が起こっても良いようにね」
流石にいきなりって事は無いと思うけど、念の為……そう、念の為に着替えてアレックスを待つ事にした。
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