第81話 葡萄酒と魔物酒の試飲

 翌朝。いつものように、フィーネの本能による行動で起こされ、朝食を食べて居ると、


「ご主人様。以前に葡萄酒を仕込んでから、二週間が経過しました。そろそろ頃合いではないかと」


 モニカが以前に作った葡萄酒の話を持ち出してきた。

 そういえば、シェイリーが失った力を回復するのに酒が有効だと言っていたから、モニカの指導で作っていたよな。

 この話で、ニナにドワーフの酒についても教わり、サソリや蛇を酒に漬けて暫く放置していた事も思い出してしまった。

 新たなスキルを得る為に、少し飲んでみるべきだろうが……とりあえずシェイリーの所へ行ってからだな。

 酒を飲んだ状態で魔物が現れる場所を通る訳にはいかないし。


「わかった。じゃあ、先ずは様子を見に行こうか」

「はい。あと、昨日家を作った木材が余っていたら、ノーラ殿に小さな樽を作ってもらいたいのだが」

「オッケー! じゃあ、ボクは樽を作っておくね」


 ノーラは東エリアに置いてある木材を取りに行き、俺を含めた他のメンバーは、葡萄酒がどうなっているのかを見てみようと、小屋の傍へ。

 木の板に覆われた、ニナに作ってもらった鉄の桶を見てみる。


「んー、良いのではないでしょうか。味は分かりませんが、おそらく発酵していると思います」

「じゃあ、これを樽に移すのか?」

「そうですね。底に溜まっている澱や、葡萄の皮などは取り除かないといけないので、静かにそっと上澄みだけを移しましょう」


 ニナが急いで大きなスプーンを作ってくれたので、それを使ってかき混ぜないように注意しながら、紫色の液体を器に移していく。

 予め持ってきていた器が一杯になった頃、


「お待たせー。出来たよー!」


 ノーラが小さな樽を持ってきてくれたので、そこへ液体を注ぎ、栓をして……一先ず完成だ。


「ノーラ殿。この鉄の桶なのだが、本来は木の桶を使いたかったのだ。今後の為に、このサイズの木の桶と、小さな樽を幾つか用意しておいてもらう事は可能だろか」

「木材はまだあったし、大丈夫だよー」

「すまない、感謝する。では、ご主人様。シェイリー殿の所へ持っていきましょう」


 モニカが手際よく樽を運んで行くのは、やはり家で葡萄酒作りの手伝いをしているからだろう。

 決して、シェイリーの所へ行って、いろんな事をする為……ではないと思いたい。


「待って。サソリや蛇のお酒は、ニナのパパが作っていたのを参考にしていたし、ニナも一緒に行くよー」

「シェイリー殿の所であれば、妾も行きます。黒髪の一族の村を見せていただきたいのです」

「フィーネも! えっと、おまじない……ちょっとやり方を忘れちゃったのがあるから、もう一度教えてもらいたいんです!」


 結局、前回シェイリーの所へ行ったメンバー――俺、エリー、モニカ、フィーネ、メイリン――にニナが加わり、リディアとノーラが地上で作業を行う事になったのだが、


「……アレックスさん。戻ってきたら、また魔法の練習に付き合ってくださいね?」


 リディアが微笑みかけてくる。

 これは先日同様、お風呂で……という事なのだろうが、今回はあくまでシェイリーに酒を届けるだけであって、変な事をする訳ではないのだが。

 何故か変な汗をかきつつ、葡萄酒と魔物を漬けた酒を持って地下洞窟からシェイリーの所へ移動すると、


「アレックス? 何やら、この前に貰った葡萄の酒の香りがするのだが」


 俺が呼ぶ前に、シェイリーが社から出て来た。


「あぁ。以前に俺たちが作っていた葡萄酒が出来たから、持って来たんだ」

「おぉ、すまないな。……そっちの瓶は何なのだ?」

「こっちは、ドワーフが飲んでいたという、魔物を漬けた酒だ。それぞれ、グリーン・スコーピオン、アイアン・スコーピオン、ロックパイソンが漬かっている。こっちは、俺も少し飲ませてもらおうと思ってな」

「ふむ。つまり酒盛りだな。まぁとにかく入るが良い」


 皆で社の中へ入り、皆で床に座ると、用意していた二つの木の器に、先ずは葡萄酒を注ぐ。

 一つはシェイリーで、もう一つはモニカだ。


「む? アレックスは飲まないのか?」

「俺は酒を飲まないからな。モニカも作った葡萄酒の味をみるだけだ。とはいえ、後でそっちの魔物を漬けた酒は飲んでみるつもりだが」

「そうなのか? 酒は旨いのだが……まぁ無理強いは良くないか。さて、先ずは葡萄の酒を……ふむ。悪く無いのではないか?」


 シェイリーが葡萄酒を普通に飲む一方で、モニカは匂いを嗅いだり、器を回してみたり……俺には分からないが、いろいろとチェックしているみたいだ。


「ねぇ、モニカ。何を調べているの?」

「……いや、父の真似をしてみただけだ。正直、よく分からなかった」

「そ、そうなんだ」

「さて……うん。味は悪く無い……と思う。たぶん」


 ニナの質問で分かったが、俺と一緒で、モニカも酒は飲まないのか?

 モニカは器に注がれた葡萄酒を、何度かに分けて飲み干し、


「……ご主人様。また私に……くぅ」


 寝たーっ!

 しかも、俺の隣に座っていたから、そのまま俺の方に倒れてきてしまい、胡坐を掻いて座る俺の股間に顔を埋めるように……って、どこで寝ているんだよっ!


「む! もう早速始めるのか? では、我も」

「え? いや、どうやらモニカ酒に弱いみたいで、寝てしまっただけ……」

「お兄さん。ニナもー!」


 モニカが倒れてきた場所が悪かったせいで、メインは酒の試飲のはずだったのに、早速アレが始まってしまった。

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