第697話 偽造スキルの効果
「隠す事を司る者?」
「うむ。太陰の力をもってすれば、村単位での神隠しなども出来なくはない。だが……太陰は決してそのような事をする者ではないのじゃ」
神隠しか。
なるほど。村から女性だけが忽然と消えたというのは、ミオの言う通り、神隠しとも言えなくはない。
だが、女性だけというのは何故だ?
そもそも、そんな事をする理由がわからない。
「そういえば、天空が太陰を助けてあげて欲しいと言っていたが、誰かに無理矢理力を使わされているとかではないのか? 玄武も、風の四天王に協力させられていただろ?」
「なるほど。その可能性はあるのじゃが……天空が本当の事を話すというのが、我としては信じられぬのじゃ。それに、どうして天空がそのような事を知っているのかもわからぬし」
天空が嘘を吹聴するというのが、俺にはあまりイメージが湧かないのだが、長年の付き合いのあるミオや騰蛇がそう言うのだから、これまではそうだったのだろう。
だが、さっきの天空は嘘を吐いている感じでは無さそうだったんだけどな。
「それより、アレックスよ。天空のスキルが使えるようになったのであろう? どんなスキルなのじゃ? 奴の事じゃ……嘘が上手くなるとか、息をするように嘘が出て来るといったものではないのか?」
「どんなスキルかはわからないが、天后が偽造スキルだと言っていたな」
「ふむ……名前からして天空らしいが、あまりアレックスに適したスキルな気がしないのじゃ。まぁとりあえず使ってみてはどうなのじゃ?」
「そうだな。スキルの把握はしておきたいな。……≪偽造≫」
太陰の事をもう少し知りたくもあるが、ミオに召喚スキルを再び使ってもらうのもどうかと思うので、ひとまずスキルの確認を行う事に。
スキルが無事発動し……目の前に俺が現れた。
「む? 分身スキル……か?」
「……いや、少し違うみたいだ。分身スキルや複製スキルのように、動かせたりはしないようだ」
「つまり、アレックスそっくりの動かない偽物を作り出すスキルか。あまり使い道はなさそうなのじゃ」
「そのようだな。とりあえず、スキルを解除して消しておくか」
ミオと共に、生み出された俺の偽物を確認し、解除しようとしたところで、
「お待ちください、ご主人様っ!」
突然モニカが割り込んできた。
「どうしたんだ?」
「まだ確認すべきところが残っております……失礼致しますっ!」
「……って、おい。モニカ……」
「ほほう。なるほどなるほど。どうやら極めて精緻な偽物のようですね。私から見ても、アレがそっくりそのままご主人様と同じです」
「……じゃあ、もういいか?」
「お待ちください! 匂いと味の確認を……うんっ! この芳醇で濃厚な芳しい香り。そして……味も全く同じです」
とりあえず、ディアナが真似をしようとするから、変な事をするのはやめてくれないだろうか。
モニカにジト目を向けつつ、改めてスキルを解除しようとすると、再びモニカが声をあげる。
「ご、ご主人様。偽物のアレが反応いたしました! ご主人様のは……通常サイズ!? 感覚がリンクされていないけれど、生理現象は起こるようですね。という事は、このまま続ければ……」
「続けなくて良い……解除」
「あぁぁっ! まだまだ確認したい事があったのにっ!」
モニカが物凄く残念そうにしているけど、その様子を興味津々といった表情でディアナが見つめていて……どうやって誤魔化そうかと思いながら、先へ進む事に。
バンシーが言っていた、下――南へ向かい、白虎を助け出さなければ。
豚耳の獣人族の村を出ると、時折ユーリやザシャに空から周囲を見渡してもらって、村へ立ち寄る。
基本的に西大陸は獣人族が多いようで、行く先々でいろんな獣人が暮らしていた。
それから、幾つかの村を過ぎたところで、
「パパー! もりがみえるよー!」
砂漠、荒野ときて、ようやく森へとやって来た。
西大陸のかなり内側へ来たようだ。
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