第948話 ネーヴのお国事情

「では、以上の内容で頼む」

「頼まれたが……少し時間をくれ。流石にこれを今すぐという訳にはいかない。特に、敵対勢力がな」

「ふむ。そこに一番時間が掛かるというのであれば、私が直接殴り込みに行こう」

「スノーホワイト。それで反感を買ったのだからな?」


 打ち合わせが終わったものの、ネーヴの言葉にスノーウィが頭を抱える。

 何というか、その……苦労しているんだな。

 しかし、困った。相手が悪人であればパラディンとして正しに行くが、今回は特段悪い訳ではなく、単に敵対しているだけだ。

 双方それぞれに自身の考える正義があって然るべきだし、明確な悪でなければ、倒しに行ったこっちが悪人になってしまう。


「しかし反感と言っても……奴らがやっていた事を考えるとな」

「え? スノーホワイトは奴らが……スノーマスクたちが何かしていたのを掴んでいたのか?」

「掴んではいたが、決定的な証拠がなくてな。被害者の証言はあるが、奴らは公爵位だ。半端な状態では握りつぶされる。だから、問答無用で潰そうとしたんだが」

「待て待て待て。被害者? 詳しく話してくれ。何の事だか全くわからないぞ!?」


 ネーヴの言葉で、スノーウィとスノードロップが顔を見合わているが、引継ぎ的な事が無かった……いや、ネーヴはスノードロップに裏切られて、炎の呪いを掛けられたと言っていたし、それどころでは無かったのだろうな。

 ネーヴは根に持つタイプではなさそうだし、確か裏切られたのが五十年前という話だったはずだから、今見ている限りでは、スノードロップを恨んでいるようには見えないが。


「あぁ、托卵だよ。スノーマスクは領民の若い女性が結婚すると、強制的に屋敷で働かせて妊娠させるまで解放しないんだ」

「は? 何の為にそんな事を?」

「それこそ私が知る由もない。ただ、女性は夫に真実を話す事も出来ず、二人の間に出来た子だと言うしかないらしい。しかも、そういった行為も込みの給金が出るから、尚更表沙汰にならない」

「じゃあ、スノーホワイトはどうやってそれを知ったんだ?」

「奴らをそこそこ潰した後、一応和解して領地を視察していただろう? その時に被害者の一人から相談され……秘密裏に調査していたんだよ。証拠はないが、実は子供がスノーマスクの子だと教えてくれた者が三十人程いた。実際はもっと多いのだろう」


 さ、三十人!? おそらく大きな街なのだと思うが……とんでもない事ではないのか!?

 これが事実だとするならば、スノーマスクと呼ばれている奴は間違いなく悪なのだが……公には動けないな。

 証拠がないというのもそうだが、五十年前の話だと考えると、被害者はもっと増えているだろうし、その被害者の孫や曾孫……と、影響が大きすぎる。


「ど、どうしてそれを言わないんだっ!」

「スノードロップに炎の呪いを掛けられたからな。それどころではなかったのだよ」

「う……わ、私もそんな事知らなかったので。それに、あの時スノーホワイト様を止めていなければ、間違いなく内乱が起こっていましたし……」


 スノーウィの言葉にネーヴが仕方が無いと肩をすくめるが、スノードロップにはスノードロップの正義があって……複雑だな。


「ひとまず、スノーホワイトの話の裏を取ろう。スノーマスクがスノーホワイトに半壊させられたのは七十年くらい前の話だったと思うから、今ならまだ被害者の子供も幼いはずだ。いや、もっと前から行われていたら、悲惨な状況だが」

「ん? スノーウィ。七十年前の話で、まだ幼いとは?」

「アレックス様。我々スノーフェアリーは人間族と歳の取り方が違うのです。妊娠期間は人間族と同じ約一年ですが、生まれてからの成長は百年で一歳なのです」

「そうか。種族間の違いか……」

「はい。ですから、スノーホワイトも幼く見えるでしょうが、もう二千年以上生きております」


 まぁ種族の違いによる時間の差は仕方がないな。

 天使族のユーディットや、竜人族のレヴィアも、千年以上生きていると言っていた気がするし。


「結衣たちは、人間族と同じ成長速度です! ですから、結衣ももうすぐ子供が産めるようになります!」

「莉子はもう産めるよー!」

「美月もアレックス様の御子を産みたいです」


 ん? 結衣はまだ未成ね……いや、今はスノーマスクの問題に集中しよう。

 何故か変な汗が出て来たが、ネーヴたちの話に耳を傾ける事にした。

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