第949話 胃が痛いスノーウィ
「では、私とアレックスの結婚式において、スノーウィが最大の問題だというスノーマスクについては、私が何とかする。だから、それ以外の事はスノーウィに任せた」
「おいおい……いや、今更か。しかし本当に任せて大丈夫なのか?」
「もちろんだ。いざとなれば、力づくで……」
「それをすると、本当に面倒な事になる。さっきの托卵の話が事実ならまだしも、証拠も無しにそんな事をしないでくれよ?」
ネーヴとスノーウィが話を纏めたようだが……うん。スノーウィが胃が痛いと言って、今にも吐きそうな顔をしている。
俺もネーヴのサポートをするつもりなので、出来る限り迷惑を掛けないようにしたい。
「すまない。俺からも一つだけ頼みがあるんだが、先程スノーホワイトの両親の話が出た。式を挙げるのであれば、先に挨拶をさせてもらいたいのだが」
「おぉぉぉっ! 流石はアレックス! もう父と戦ってくれるのか!? そうだな。アレックスがやる気になっているんだ。先に実家へ行こう!」
「ちょっと待ってくれ。もちろんご両親に挨拶はするが、今変な事を言わなかったか? 戦うとかって……」
「うむ。我らスノーフェアリーは、結婚時に夫が妻の父親と殴り合う風習なのだ。魔法は使わず、拳だけの身体を使った父と義息子の会話だ。きっと分かり合えるようになると思うが、アレックスの場合は父が亡くならないように加減して欲しい」
……いや、それはどういう風習なんだ!?
結婚前からご両親と仲が悪くなりそうなんだが。
ネーヴは何を言っているんだ? という視線をスノーウィに送ると、本当だと無言で訴えかけてくる。
「えっと、スノーフェアリーの女性はかなり人間族に近い体型ですが、スノーウィ様をご覧になられると分かる通り、男性は少しくらい殴られても何ともない身体ですので」
「だからと言って殴り合う必要はないと思うのだが。それに、俺はスノーフェアリーではないので、スノーウィよりも二回り以上小さいぞ?」
「いや、父は前元帥ではあるが、既に引退の身。種族差を加味しても、間違いなくアレックスの方が強いから大丈夫だ」
スノードロップの説明になっていない説明に突っ込んでいたら、またもやネーヴから変な言葉が出てきた。
父親が前元帥……って、これもおそらく凄い立場なんだよな?
そういう事は先に言っておいてくれ……って、兄妹で宰相をしているくらいなのだから、ご両親も相応の階級であってもおかしくないのか。
「はぁ……スノーフェアリーの風習については、わかった。天使族にも結婚時に似たような文化があったしな」
「強さを示さないといけなくてー、ヨハンナおばーちゃんやルーシアおねーちゃんと戦ったんだよねー!」
「まぁ、そうだな。ただ……戦いになっていなかったけどな」
ユーディットと結婚するという話になった時、実の母親であるヨハンナさんが、天使族とのチーム戦をするように言ってきて……ミオの結界スキルで完封。
メンバーを変えて再戦する事になったが、今度はソフィの白い光の攻撃で天使族が戦意喪失。
結局、天使族最強の戦士だというルーシアと俺が一対一で戦う事になったのだが、スピードは素晴らしいものの、攻撃が軽すぎて全くダメージを受けなかったという事があった。
娘が欲しければ力を見せろという文化は、それなりにあるのかもしれないな。
「取り急ぎ、父と母には連絡しておこう。これこそ、事前連絡無しに行ったら、大騒ぎになるというか、父が激怒するのが目に見えている」
「う……確かに。アレックスと殴り合ってもらう以前の話になってしまうな。すまないが、そこは頼む。私たちはスノーマスク領の調査に行ってくる」
「わかった。だが、スノーホワイトにスノードロップを同行させた方が……いや、うーん」
スノーウィが再び頭を抱え始めたが……宰相としての本来の仕事もあるだろうし、右腕のはずのスノードロップの同行は断っておいた。
……ひとまず、スノーウィが胃を痛めなくて済むように、俺がネーヴをフォローしていこう。
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