挿話127 海獺族の薬師トゥーリア
「ウチとトゥーリアも、船に乗るねー!」
ルクレツィアの言葉でアレックス様の分身だらけの船に乗ると、その分身さんたちの間から、静かに水の中へ戻る。
水の中を静かに泳ぎ、岩陰に隠れて居ると、一瞬で船が消えた。
「今のは、あの竜人族のスキルなのか?」
「いや、また別の場所に居る者のスキルだ」
ラヴィニアさんのお父さんとアレックス様が少し話した後、皆で人魚族の村へ戻っていった。
「よし! 上手くいった……じゃあ、そろそろ私も行こっと」
アマゾネスの村で、アレックス様の分身さんたちと朝まで楽しむのも捨てがたいんだけど、人魚族に伝わる秘薬なんて話を聞かされたら、薬師として確認せずにはいられなくなっちゃったんだよねー。
ラヴィニアさんは、いずれ妊娠するから要らないって言っていたけど、それは私も同意見。
だって、アレックス様ったら本当に凄いんだもん。
だから自分で使うつもりはないけれど、それでも知的好奇心って言うのかなー?
どんな成分なのか、調べてみたいよねー!
そんな事を考えながら、人魚族の村の中へ進むと、十字路に差し掛かる。
「……真ん中の通路の奥から、話し声が聞こえるから、右か左ね」
どちらへ進もうかと考え、右側へ行ってみる事に。
「飲み物は足りてるー?」
「うん、大丈夫ー! 誰か知らないけど、奥からお酒の瓶を持って来てくれたみたいー!」
「おっけー! じゃあ、次は前菜を……」
あ、マズい。こっちは調理場らしく、何人か人が居るみたい。
秘薬の事を聞いたら教えてくれるかなー?
でも秘薬っていうくらいだし、別の種族の私が聞いてもダメだよねー。
ルクレツィアなら、人魚族を助けた恩人の孫だから、分けてくれるかもしれないけど、私では無理かも。
という訳で、さっきの十字路まで戻り、今度は反対側へ。
こっちは人が居ないみたいなので、そのまま進んでいたんだけど……水の中を泳ぐ人魚の男性と目が合う。
「……誰だ?」
し、しまった。
よく考えたら、相手は人魚族だ。
私みたいに通路を歩かず、水路の中を泳いだ方が速いに決まっているわよね。
「え、えっとー、海獺族の族長の娘、ルクレツィア……に頼まれて、薬を取りに来たんです」
「そうか。それなら、真っすぐ行って左だ」
「あ、どうも」
ラッキー! 咄嗟にルクレツィアから頼まれた事にしたら、簡単に教えてくれた。
そう言えば、ラヴィニアのお父さんも秘薬を使うか? って、あっさり言っていたし、人魚族の秘薬は大量にあるとか、材料が容易に入手可能とかなのかも。
早速行こうとしたんだけど、人魚族の男から待ったが掛かる。
「す、すまない。海獺族の遣いで来てもらっている君にこんな事を頼むのは申し訳ないのだが……ひ、一つ頼みを聞いてくれないだろうか。いや、ほんの数秒で終わるんだ」
「はぁ……何ですか?」
「その、変な意味ではないんだ。ただ、人魚族以外の者の意見を聞きたくて……えっと、お嬢さんは海獺族の男のアレを見た事はあるだろうか?」
「アレ?」
「そ、その……こ、これだよ。あぁっ! もう一度言うが、本当に変な意味じゃないんだ! 俺はチニーロと言うのだが、これが他の種族と比べて大きいか小さいかを知りたいだけなんだ!」
チニーロと名乗る人魚族の男が突然仰向けになると、股間を指さしてアレを見せて来たけど……変態なのかな?
まぁわざわざ名乗るあたり、必死なだけなんだと思うけど……とりあえず、小さいんだけど。
アレックス様と比較しているからかな?
けど、アレックス様以外のは見た事ないし……でも、薬の事を教えてくれたから、正直に言ってあげるべきだよね。
「小っちゃい……かな」
「ぐっ……や、やはり種族の差か。変な事を頼んですまない」
「あ、はい」
種族の差って事で納得してくれたみたいだし、良かった……かな?
それから、教えてもらった通りに進むと、倉庫みたいな場所に来たんだけど……く、薬だらけ。
小瓶に入った液体が沢山あって、どれが秘薬なのか分からない上に、人魚族の文字が読めないんだけどっ!
かなり長い間、いろんな瓶を眺めながら悩んでいたけど、ラヴィニアのお父さんが先祖代々伝わるって言っていたのをようやく思い出し、一番古い瓶の薬を一つ頂戴する事にした。
あとは、何処か適当な場所で朝になるのを待てば良いんだけど……この匂い!
「水路が白く濁って……この香りと量は、絶対にアレックス様だっ!」
香りの元に向かって駆け出すと、眠るアレックス様の上で見知らぬ人魚族の少女がうねうね動いていて……なるほど。水の中でなくても出来るんだ。
「じゃなくて、私も混ぜてーっ! あ、順番はちゃんと守るからー!」
床で気絶している人魚族が八人程で、順番待ちが二人……早く私の番にならないかなー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます