第561話 轟沈するチニーロ

 ラヴィニアを抱きかかえると、そのまま会場の外へ。

 思った通り、皆が……特にラヴィニアの父親が泥酔していて、誰からも何も言われる事はなかった。

 ……思いっきり、俺の腰に結衣が抱きついてたんだが、それを含めて何も言われなくて良かったよ。


「さて。出口はこのまま真っすぐだという事はわかるのだが、ラヴィニアを何処で休ませれば良いんだ?」


 天后のスキルで船が既に転移されている為、この人魚族の棲家を出ても仕方がない。

 とはいえ、会場に戻ったところで、ラヴィニアは休めないだろう。

 ミオが居れば、結界を張ってもらってその辺で……というのもアリなのだが、無い物ねだりをしてもしかたがないので、とりあえず右へ進んでみると、


「ん? お前……どうして酔っていないんだ!? あんなに酒を濃くしておいたのに」


 通路の途中でラヴィニアの婚約者だったという男、チニーロに遭遇してしまった。

 この男にラヴィニアを譲るつもりはないが、婚約者だったというのは申し訳ないと思っている。


「……って、ちょっと待った。酒を濃くしておいた……って、あの会場が大変な事になっているのは、お前のせいなのか!?」

「さぁね。だが、俺のアマンダちゃんを奪ったお前は許さん! 確かにお前のアレは凄いかもしれないが、俺は体力にも自信がある! アマンダちゃんを最低でも二日に一回は……って、お前。その腰はなんだ? 狼耳族の幼女……?」

「え? あ、あぁ。まぁその……こっちもいろいろと都合があるんだ」

「とにかく、お前よりもアマンダちゃんには俺の方が相応しい! アマンダちゃんを返せっ!」


 そう言って、水路から上半身を覗かせていたチニーロが、水から大きく飛び跳ねてきた。

 が、水中はともかく、水上ではそこまで素早い訳でもなく、簡単に身をかわす。


「ぐっ……避けるなっ! み、水の中に戻るまで少し待ってろ!」


 いや、無茶を言うな。

 というか、ラヴィニアを抱きかかえていなければ、間違いなくカウンターで殴っていたし、結衣が腰に抱きついていなければ蹴っていたのだが。

 今ならチニーロが水の無い通路に転がっているし……いや、流石にこの状況で踏んだりするのは酷いか。

 とはいえ、両腕と蹴りが封じられた状態で、どうやってチニーロの相手をしようかと考えていると、


「は? 二日に一回? アレックスさんは、一日に二桁回数満足させてくれるわよ。しかも毎日。ねー、あなたー!」

「あ、アマンダちゃん!? あぁぁぁ……そんな! アマンダちゃんから思いっきり舌を!? えぇぇぇっ!? そんなにジュルジュルと……」


 酔ったラヴィニアが見せつけるようにして俺の舌を吸い上げてくる。


「……ふぅ。ご主人様の、量が多過ぎてお腹がタポタポだし、そろそろ口ではなくて、こっちにもらっても良いですか? というか、もう我慢出来ないんで、こっちで……~~~~っ!」

「な……よ、幼女が!? あ、アマンダちゃん! 下を見てくれ! そいつは、アマンダちゃんが居ながら、浮気を……」

「浮気じゃないもーん。アレックスさんはー、奥さんが数十人居てー、結衣ちゃんもその一人だものー。もちろん私も、その中の一人でー、アレックスさんの妻だから……結衣ちゃん。後で私にも代わってねー」


 結衣が俺への抱きつき方を変え、深々と……って、チニーロが地面に突っ伏して動かなくなったんだが。

 どうやら戦う気力がなくなったようなので、そのままそっとしておく事にした。

 それから通路を進んで行くと、十字路に出てしまったので直感で直進してみる。

 すると、何やら部屋のようになっていて、大きな浴槽みたいな場所と、ハンモックのようなベッドがあった。


「んーとねー、ゲストルームって書いてあったからー……流石、あなた! きっとこの部屋があなたの部屋よー! 結衣ちゃんも、出され過ぎて身体がビクンビクン震えているしー、次は私の番なんだからー!」

「……ご、ご主人様。一旦、交代しますね」

「ありがとう、結衣ちゃん。うふふ……夫婦水入らずで、独占よぉー!」


 結衣が俺の影の中へ入ると、ラヴィニアに浴槽の中へ招かる。

 おそらく、ここは人魚族の寝る場所だと思うのだが……水が汚れると思うが、良いのか? というか、ラヴィニアは話し方も変だし、酔っているからもう仕方ないのかもしれない。

 これもチニーロのせいか……と思いながら、暫くラヴィニアの相手をしていると、


「アマンダー! 私たち、料理係でお祝い出来なかったから、ちょっとだけ挨拶に……きゃっ! ご、ごめんなさい。お楽しみ中だったのね」

「あ! 良いところに……こ、交代。交代して……。アレックスさんのが凄すぎて……後は、任せたわね」

「えっ!? アマンダ!? 良いのっ!? ……きゃっ! す、凄い! じゃ、じゃあお言葉に甘えて……アレックスさん。アマンダの友人です。私たちにも、その凄いのをお願いしますっ!」


 三人の人魚族の少女が入って来て、ラヴィニアの公認だからと……どうしてこうなってしまったのだろうか。

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