第214話 ナイショ

「待って! アンタがウチのお尻が好きなのは分かったから! アンタ、怒るフリをしながら、ウチのお尻を触りたいんでしょ? 触りたいなら触って良いから、叩くのはもうやめてよ!」

「いや、何を言っているのか分からないんだが」


 お仕置きで尻を叩いていたら、斜め上の言葉が飛んで来た。

 ヴァレーリエは未だに謝る素振りは無いし、どうしたものだろうか。

 とりあえず、尻叩きがダメだと分かり、一旦手を止めると、


「うわぁ、本当にやめた! アンタ、やっぱりウチのお尻を触りたいだけだったんだー! へんたーい! 周りにこれだけ女の子が居るのに、誰にも相手してもらえない、ざこ男ー!」


 未だに俺の腕の中に居るヴァレーリエが、ニヤニヤしながら顔を向けてくる。

 どうしたものかと思っていたら、


「ほぉ。多大な魔力の放出があったから何かと思ったら、ドラゴン……というか竜人族か」


 シェイリーがやってきた。


「ん? なっ……この魔力は、神獣!? 魔王に挑んで封印されたハズなのに!?」

「あぁ、アレックスに封印を解いてもらったからな。アレックスは我の恩人。そこの竜人族の女よ……我の恩人に変な事はしておらぬだろうな?」

「し……してないし。い、今もざこ……じゃなくて、この人にお尻を触らせてあげていたんよ。ほ、ほら、この人間って、童貞っぽいし」

「……お主は何を言っているのだ? この辺りに住んで居る女性は我を含め、ほぼ全員アレックスの女だぞ」

「…………はっ!? 神獣が!? ……えっ!?」

「シェイリーだ。我は、シェイリーという名を貰っておる。……ついでに言っておくが、アレックスは神のスキルを持つ者だ。お主如きでは、到底勝てる相手ではないからな?」


 シェイリーと言葉を交わし、ヴァレーリエが目を丸くして俺とシェイリーを交互に見てくる。

 なるほど。ヴァレーリエはシェイリーの事を知っているのか。


「アンタ、童貞だから可愛いウチのお尻を触りたくて、こんな事をしているんじゃないの!?」

「そんな事は一度も言っていないが」

「じゃあ、さっきの夢だと思っていたのは、まさか現実だったの!? アンタが四人に増えて、大量の白いアレが……どうりで変な匂いがするはずなんよ」


 実は、倒れたヴァレーリエを抱きかかえて少し位置を変え、更にサクラとその人形のサラが綺麗にすると言って、念入りに……こほん。それでも、まだ匂いがするのか。


「ほほぉ。確かにアレックスはスキルが大量に増えておるな。何があったのだ?」

「あぁ、昨日……」

「いや、やはり話は後で聞こう。それより、場所を変えるのだ。どうせなら、こんな場所よりも室内の方が良いであろう」

「シェイリー……出来れば、俺の増えたスキルを教えて欲しいのだが」

「任せておけ。だが、お主たちは楽しんだのに、我は参加しておらぬからな。それは寂しいではないか」


 そう言って、西エリアのシェイリーの社へ行く事になってしまった。

 つい先程したばかりだと言うのに、休みなく……って、どうしてサクラたちは嬉しそうなんだよっ!

 だが、その一方で、


「ちょ、ちょっと待って。どうして、ウチも連れて行かれるんよ! ウチはお尻を触らせてあげたんよ! これ以上は……」


 ヴァレーリエが泣きそうになっている。

 とりあえず、ヴァレーリエは家で待っていてもらっても構わないのだが……何をするか分からないからな。

 さっきのでちゃんと反省していれば、それでも良かったのだが、現状ではミオの近くに居てもらい、結界で暴れないようにしてもらわなければならないだろう。

 で、ミオは当然のようにシェイリーの社へ行こうとしているから、必然的にヴァレーリエにも来てもらわなければならない訳で。

 一先ず、俺から無理矢理何かをする気はないから、サラと一緒に待機していてもらおうか。


「はっはっは。まぁ良いではないか。アレックスのは凄いぞ? それに……ふふっ、アレックスよ。かなり面白いスキルが増えておるではないか」

「影分身の事か?」

「いや、それも素晴らしいスキルだが……ふむ。そちらの天使族の少女は気付いているようだな」

「ユーディットが?」


 シェイリーの言葉でユーディットを見てみると、


「えへへー。今は未だナイショだよー」


 そう言って、可愛らしい笑みと共に背後から抱きついてきた。

 エリーもそうだが、最近皆から内緒にされる事が多い気がするけど……何か信頼を失うような事を、知らず知らずの内にやらかしてしまったのだろうか。

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