第557話 耐えるレヴィアたん

 人魚族の男が水の中から銛を取り出すと、俺に向かって突きだしてきた! ……が、俺の腹の前で寸止めされる。

 一体何のつもりなのかと思ったのだが、よく見ると銛には手のひらサイズの魚が突き刺さっていた。

 これは……俺にこの魚をくれるという事か?


「えーっと……ど、どうも。ありがたくいただこう」

「なっ!? ち、違うっ! その魚は、漁から帰ってきたところだったから……というか、どうして銛が通じないんだ!?」

「え? 寸止めしたんじゃないのか?」

「するかっ! 本気で殺すつもりで突いたのに、お前の身体が硬すぎるんだっ!」


 いや、流石に生身で銛を受け止めるなんて事は出来ないんだが。

 人魚族ジョークだろうか?


「くっ! こうなったら、≪アクア……」

「すまん。悪いが、先に外の海竜を――レヴィアを何とかしてくる」

「あ! アレックス様、待ってー!」


 もらった魚をラヴィニアに渡し、急いで水中の通路へ。

 すぐにルクレツィアが来てくれて、俺の移動をサポートしてくれる。

 水の中の通路を抜けると……巨大な海竜の周りを、大勢の人魚族が取り囲んでいるように見えた。

 すぐにレヴィアだとわかったので、急いで水上まで出ると……人魚族が海竜の姿のレヴィアに攻撃魔法を放っている!?


「ちょっと待ってくれ! この海竜は俺の仲間なんだ!」

「≪水の刃≫」」

「待てと言っているだろっ!」


 大声で叫ぶが、人魚族たちは聞く耳を持たず、レヴィアへの攻撃を止めない。

 幸いなのは、攻撃手段が全て水魔法なので、レヴィアが全くダメージを受けていなさそうなところか。

 だからなのか、レヴィアから攻撃する事は無く、動かずにひたすら攻撃を受けている。


「≪水柱≫」


 しかし、中には強力な水の魔法を放つ者が居て、レヴィアにはダメージが無さそうだが、


「きゃー!」

「ふぇぇぇーっ!」


 海面が大きく揺れ、ユーリとプルムが乗って居る船が激しく揺れる。

 ……そうか。レヴィアが海竜の姿で、しかも船を囲むようにしてじっとしているのは、船を守る為か!

 殴って良いなら人魚族たちを力づくで止めるのだが……そうだ!


「≪サイレンス≫」


 相手を沈黙状態にする神聖魔法を使い、攻撃魔法を放っている人魚族たちを黙らせて行く。

 このおかげで静かになった……と思ったのだが、巨大なレヴィアをひたすら銛で突いている人魚族が居た。

 急いで泳いで行き、再び突こうとしていた銛を右手で掴む。


「――っ!? ――っ!」

「悪いが、沈黙状態にさせてもらった。この海竜は俺の仲間なんだ。攻撃を止めてくれないか?」

「――っ!」


 他の人魚族がレヴィアから距離を取る中で、この人魚族の男性だけは興奮状態で、仲間だと言った俺にも怒りの眼差しを向けて来る。

 だが、俺が掴んでいるから銛は引く事も突く事も出来ず……まぁ元よりレヴィアに傷一つ付けられていないのだが、銛は動かない。

 すると、銛を手放した人魚族の男が、今度は俺に殴りかかってきた。

 その拳を左手で受け止めると、今度は尾ひれで……痛くは無いが、どうやったら止まってくれるのだろうか。

 ……一発殴った方が良いのか?

 どうしようかと思っていると、


「……お父さん!? やめてっ! 私のアレックスさんに何をしているのよっ!」


 水中からラヴィニアがやってきて、人魚族の男の前に。

 ラヴィニアの顔を見た途端に、男が驚き、


「――っ! ――っ!」


 口をパクパクさせてラヴィニアを抱きしめる……って、沈黙を解除しようか。


「アマンダ……無事で本当に良かった!」

「それより、お父さん! 皆も聞いて! このアレックスさんは私の夫で、こちらの海竜……レヴィアさんは私とアレックスさんの仲間なの!」

「仲間……って、アマンダ。海竜はお前を連れ去った奴じゃないか!」

「そうだけど、違ったの。あの時、レヴィアさんも、魔族に操られていたのよ」


 ラヴィニアの言葉が届いたようで、父親がようやく冷静になる。

 他の人魚族も顔を見合わせているし、もう全員の沈黙を解除して大丈夫そうだな。

 俺の状態回復魔法と共に、レヴィアも幼い少女の姿に戻ると、俺に抱きついてきた。


「アレックス。レヴィアたん、ユーリとプルムを守った。人魚族も攻撃してない。褒めて」

「あぁ、ありがとうな。レヴィアが頑張ってくれたおかげで、誤解も解けそうだ。ユーリとプルムも……うん、無事みたいだし、本当にありがとう」

「……夜、よろしく」

「……最近、レヴィアに借りを作りっ放しだな」

「でも、昨日も今日も満足してる。本気のアレックス、大好き」


 船の上で手を振るユーリとプルムを確認し、改めてラヴィニアの父親と話をする事にした。

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