第643話 聖域

「……という訳で、今は東大陸にある家で、ノーラは暮らしています」


 ノーラの両親に、奴隷解放スキルや魔族領の説明を行い、ひとまず無事である事と、俺の妻の一人である事を伝え、どうにかして一度連れて来るという話をした。


「ありがとうございます。そうですね。娘の元気な姿を見られると、私も安心出来ます」

「私は出来る事ならば、孫も見せていただけると凄く嬉しいのですが……こればっかりは、どうなるか分かりませんからね。ただノアちゃんと離れるのは辛いですが」


 とりあえず、ノーラの父も母も俺との関係は認めてくれるようで、特に問題などもなさそうだ。

 ただ母親の言う孫は、まぁそのうち……と言った所だろうか。

 ノーラの人形であるノアは……本人が拒否しなければ、ノーラの代わりという訳ではないが、両親に預けても良い気もするので、後で聞いてみよう。


「アレックスさん。今日はもう日が暮れておりますし、村へ泊っていっていただけませんか? ノーラの事をもっと聞きたいですし」

「ありがとうございます。そうですね。俺としてもノーラの事をお話ししたいのですが……実は、この村の下に仲間が待っておりまして」

「なるほど。モニカさんとフェリーチェさんは、木の上の客人用の家に泊まっていただいておりますが、アレックスさんのお連れ様も、泊まられますか?」

「そう言っていただけるとありがたいのですが、種族的に木に登れない者もおりまして」


 流石にラヴィニアを担いで梯子は危険だからな。

 階段ならば、俺が抱きかかえて登れるのだが。


「なるほど……うーん。そうなりますと、木の下で野宿となってしまいます。水は小川があり、食事は提供させていただくのですが、魔物が出てしまいますので、聖域でも良いでしょうか」

「聖域……ですか?」

「はい。不思議な力で、魔物が寄り付かない場所があるのです。我々もその中心には近寄りませんが、その場所の端であれば一泊していただくくらいなら大丈夫かと。あと、テントでよければありますので」

「わかりました。では、すみませんがお願い致します」


 レヴィアがいてミオの結界もあるので、おそらく聖域という場所でなくても大丈夫だと思うのだが、せっかく場所を提供してくれるという話なので、今日はテントで宿泊してもらう事にした。

 ひとまず、仲間に聖域の場所を伝えるという話をすると、奥からノーラに似た女性が現れる。


「では、私がご案内いたします。ノーラの姉、ノーマと申します。この度は、妹を助けていただき、本当にありがとうございます」

「お姉さんがいらしたんですね。知りませんでした……こちらこそよろしくお願いいたします」


 ノーマがスルスルと木を降りて行くので俺も続くと、フェリーチェがマントで。モニカが梯子で降りてくる。

 皆に聖域の場所を伝えたら戻って来るのだから、フェリーチェとモニカは待っていれば良いと思うのだが……まぁいいか。


「……って、フェリーチェもモニカもくっつき過ぎじゃないか?」

「だ、だって、もうずっと我慢しているんです」

「わ、私もです。ご主人様。い、今すぐここで……あぁっ! 置いていかないでくださいっ!」


 唐突に服を脱ぎ始めたモニカを無視して、レヴィアたちに事情を説明すると、ノーマを先頭に聖域へ歩いて行く。


「……アレックス様。やっぱり先程の不思議な力の方向へ向かっていますね」

「なるほど。聖域という話だから、大丈夫だと思うが……」


 って、聖域か。

 シアーシャと話していてきづいたのだが、魔物が寄り付かないと言っていたけど、魔族のザシャは大丈夫なのか?

 後ろを歩くザシャの様子を伺ってみるが……平然としているな。

 何もなければ良いのだが、マズそうならザシャは木の上へ来てもらっても良いかもしれないな。


「アレックスさん。こちらのテントをお使いください。また後ほどお食事をお持ち致しますね」

「すみません。助かります」

「いえ、気になさらないでください。では、私は食事の準備をしてまいりますので、アレックス様は後ほど父の所へ来ていただけますでしょうか。私もノーラの話を是非お聞かせいただきたいので」

「わかりました。では、遅くなり過ぎないように移動します」


 そう言ってノーマが戻って行くと、突然誰かに後ろから突き飛ばされ、テントの中へ。

 一体、何事かと思って振り返ると、


「ご主人様……数日振りのご主人様。今晩はたっぷり……たっぷりお願い致しますっ!」

「アレックス様。今日は私に子供を……子供を授けてくださいっ!」

「あなた。サムエルの村に着いたらっていう約束よ?」


 モニカとフェリーチェとラヴィニアが、凄い勢いで迫って来る。

 いやあの、今からノーラの家族に話を……待ってくれ! せめて分身を……全裸で戻る訳にはいかないから、分身に頼むっ!

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