第92話 丸腰パラディン

「アレックス様、ありがとうございます。おかげで、拙者の人形が立派なアヘ顔……こほん。房中術が何たるかを理解したようです」


 俺とサクラの人形の前で、色んな事をしてしまった結果、二人が仲良く……なり過ぎて居るが、仲が悪いよりかは良いのだろう。


「じゃあ、アレックス。次は私の番ね」

「いや、エリーは三回目だろ? というか、全員二回ずつしたんだから、そろそろ先へ進もう」

「ま、待ってください。ご主人様、私は後ろでしかしてもらっていません。ですから、前から濃厚な聖水が垂れ流しになっています。どうか、こちらにも……」


 エリーもモニカも何を言っているんだよ!

 というかモニカは自分から後ろで……


「アレックス様、皆も警戒を! 何かの足音が聞こえるでござる」


 唐突にサクラの雰囲気が変わる。

 俺を含めて全員裸なのはさて置き、剣と盾を手にして警戒するのだが、


「ん……こ、これはどう? あっ! ……や、やるじゃない。だったら、ここを……んぁっ! 奥をグリグリするのはらめぇーっ!」


 サクラの人形の声がうるさい。

 サクラは、よくこの状況で足音が聞こえたな。


「アレックス! あっちよ! 大きな魔力を感じるわ!」


 エリーの指し示す方向へ照明を向けると灯りの中に二体のゴレイムの姿が……じゃない、同じ種類のゴーレムか!


「止まれ!」


 相手がゴーレムと分かったので、早速命じると、人形指示スキルの効果で動きを止める。

 だがその直後、


「命令。目の前の人間たちを戦闘不能にせよ」


 聞いた事の無い声が響き、再びゴーレムたちが動きだす。

 俺やメイリンと同じく、人形指示スキルを持っているのか。

 ……という事は、もしかして黒髪の一族の生き残り? しかし、こんな地下で?

 いや、考えるのは後だ。一先ず、話が出来るようにしなければ。


「待ってくれ! もしかして、貴方は黒髪の一族の関係者ではないのか? ならば、話をさせてくれないか!」

「敵と認識。命令。目の前の人間たちを殺せ」


 何故だ? 話をさせてくれと言ったら、敵と認識されてしまったぞ!?


「サクラ。相手側の命令している者の姿は見えるか? その人と話がしたい」

「どうやらゴーレムの後ろに居るようです。暫しお待ち……くっ!」


 ゴーレムの後ろに回り込もうとしたサクラが、突然後ろへ下がったかと思うと、暗闇の中に一筋の赤い光が疾った。

 何かの魔法だろうが、かなり強力な一撃に思える。


「アレックス様。ゴーレムよりも、指示を出している者の方が危険です! 攻撃の許可を」


 ダメージを肩代わりするスキルを使っている俺にダメージが無いので、どうやらサクラは無事に避けてくれたようだ。

 しかし、俺がサクラの言葉に応える前に、


「≪ブリザード≫」


 エリーが広範囲への氷魔法で、ゴーレムとその後ろに居る人物へ攻撃してしまった。

 だがエリーの持つ杖から魔力が放たれると、


「魔力シールド展開」


 聞き慣れない言葉が聞こえ……エリーの放った魔法が止められている!?

 どういうスキルなのかは分からないが、魔法は防がれるようなので、


「止まれ!」


 ゴーレムの動きを止め、盾を構えて突撃する。

 サクラを攻撃した赤い光のスキルは強力だと思うが、俺なら耐えられるはず!

 俺の意図を察したのか、サクラが俺より先に反対側から回り込み、ゴーレムに指示する者を引き付けてくれた。

 だがその直後、あの赤い光が煌めく。


「サクラっ!」

「大丈夫です! それよりも、アレックス様っ!」

「あぁ、分かった!」


 かなり高火力の魔法なので、連発は出来ないはず!

 向こうがゴーレムへ命令する前に回り込むと、サクラが居た方を向き、俺に背中を向けたままの小柄で、黒い髪の人物が居た。

 その場で剣を捨てると、その人物に向かって駆け寄る。先ずは羽交い締めにして、動きを止めるんだっ!


「――!?」

「待ってくれ! 俺はアレックス。黒髪の一族の王女の……こ、恋人だ。先程の魔法攻撃は悪かった。先ずは話をさせて欲しい」

「……了解」


 武器を捨てて丸腰で近寄ったのが良かったのか、話を聞いてくれるらしい。

 一先ず羽交い締めにしていた腕を緩めると、その小柄な人物がゆっくりとこちらへ振り向き、大きな瞳と目が合う。

 その人物は、意外な事にまだ幼い少女なのだが、


「私の名は……」


 名乗ろうとしてくれた所で、突然顔が強張る。

 一体どうしたのかと思って居ると、その少女の視線が下に動いていって、


「変態……」


 あ……突然の事だったから、俺は盾以外何も身につけていない、本当の丸腰だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る