第655話 空中コンボ

「アレックス様。夜まで待つというのはダメでしょうか?」

「夜になると何かあるのか?」

「私が本気を出せます。昼はクソ雑魚の私ですが、夜ならば必ずお役に立ってみせます」


 何か倒せる手立てがあるのか、シアーシャが夜まで待って欲しいと言う。

 この厳しい日差しがなくなれば、レヴィアも本来の力が出せそうなので、戦略的撤退もアリだとは思う。


「待つのじゃ。夜はアレックスに愛してもらう時間なのじゃ。それを、魔物に奪われるなどイヤなのじゃ!」

「ご主人様。ミオ殿の言う通りです。やはりここは、私の聖水を撒きましょう」

「……レヴィアたんも、夜なら本気で攻撃出来る。暑いのイヤ。でも、アレックスの子種がいる」


 シアーシャの意見に、ミオとモニカが反対し、レヴィアは……シアーシャに同意しているように思えるが、一旦置いておこう。

 というか、そもそもザシャの飛行魔法はどれくらい維持出来るんだ?


「ザシャ。あとどれくらい飛べるんだ?」

「一人なら、夜まで余裕だけど、この船を持ちながらとなると、もって数分だな」

「なるほど。となると、海まで行くのも無理か。ここで倒さなければ」

「あ、でもアレックスが子種をくれれば別だぞ。あれだけの魔力が貰えるなら、幾らでも飛び続けられるな」


 それは……流石に最後の手段だな。

 あと数分で倒す手立てが見つからなければ、一時撤退する為にザシャへ……って、ザシャは船を持ち上げて浮いているのに、どうしろと?


「ご主人様。私がザシャ殿の魔力補給のお手伝いさせていただきますので、船の縁に立っていただければと」

「……モニカは何を言っているんだ?」

「ですから、ザシャ殿への魔力補給です。流石に、あの場所へご主人様を行かせる訳にはいきませんので、縁に立ったご主人様のを私が手で……そして、上手くザシャ殿の口の中へ飛ばしてみせます」


 すまん。割と本気でモニカが何を言っているのかが分からないのだが。


「モニカよ。そんな事をせずとも、アレックスの分身を送れば良いのじゃ。ザシャに掴まり、空中で後ろから……ちょっと楽しそうなのじゃ」

「なるほど。万が一、ザシャ殿に掴まれなくとも、地面に落下する前にご主人様が分身を解除すればノーダメージですね」

「アレックス。私は、いつでも良いから、分身を降ろして欲しい」


 いや、分身をザシャのところへ送るのは最終手段……って、待てよ。

 なるほど。その手でいくか。


「ザシャ。もう少し頑張れるか?」

「もう少しならね。だから早く分身を……」

「いや、それより奴を倒す!」


 空間収納から、以前ムササビ耳族のキアラから貰ったマントを取り出すと、それを身に着けて一体だけ分身を出す。

 どういう仕組かは分かっていないけど、そのマントを着けた状態で分身が現れたので、俺はその場に座り、分身を船の上から飛び降りさせる。


「えっ!? アレックス!? ……って、飛んでる!?」

「ムササビ耳族のマントだ。心配しないでくれ」

「はぁ……って、アレックス! 奴が来るっ!」


 ザシャの言う通り、砂の中から二本の牙が見えたので、マントを操って少し離れると、その直後に巨大な虫のような魔物が飛び出して来た。

 再びマントを操作し、その巨体目掛けて全速力で突っ込むと、


「はぁっ!」


 マントからの滑空を加えた本気の蹴りを放つ。


「うわ……蹴りで、その巨体を吹き飛ばすんだ。アレックス……ちょっと凄すぎない?」


 何故かザシャが引いているが、分身を消すと、すぐに次の分身を一体出す。

 同じくマントで滑空していき、今度は蹴り上げる。

 アントライオンの巨体が少し浮いたところへ、次の分身を送って蹴り上げ、更に次の分身も蹴り上げ……と、一蹴りする度にすぐさま新たな分身を送り込む事によって、アントライオンを延々と空中で蹴り続ける事に。


「アレックス。その無限コンボ……絶対にオーバーキルだと思うんだけど」

「砂の中に逃げられたら厄介だからな」

「そ、そうか。それより、そろそろ本気で分身の一体を私に回してくれないか? ……あ、その下半身露出している分身なんて丁度良いし」

「え? 下半身露出?」


 気付けば、確かに分身が下半身を露出させており、かつ変な感覚が……これは、モニカかっ!

 とはいえ、分身をコントロールしている間は本体を動かす事は出来ず……魔物を蹴り飛ばしながら、アレがっ!


「あっ! それ、欲しい……うん。ちょっと魔力が回復したけど、どうせならもっとガッツリ飲みたいなー」


 空中で飛び散ったアレをザシャが口でキャッチし……とりあえず、モニカは俺の本体のズボンを戻してくれーっ!

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