第654話 アントライオン

「ミオ、結界は!?」

「うむ……すまぬ。二本挿しの衝撃で解けてしまっておったのじゃ。さっき張りなおしたが……地面そのものが揺れておっては、どうしようもないのじゃ」


 ミオの結界があるので、魔物から直接攻撃される事はないものの、揺れが激し過ぎて、船がミシミシと嫌な音を立てている。

 船なので揺れで壊れたりはしないと思うのだが、それでも立っていられない程の揺れはマズい気がする。


「……この船、動いていないか?」

「ご主人様。これだけ揺れているのですから、当然かと」

「いや、そういう意味ではなくて、後ろに……少しずつ向こうへ向かっている気がするんだが」


 激しい揺れの中で、空を飛んでいるため、唯一影響のないユーリが少しずつ離れていく。

 それで気付いたのだが……やはり船が後ろに傾いていて、少しずつ下っている!


「アレックス! 私が船を持ち上げる」

「ザシャ……頼む!」


 船から飛び出そうとするザシャにパラディンの防御スキルを使用し、俺も一緒に外へ。

 外へ出ると、船の後方がすり鉢状になっていて、巨大な牙のような物が二本突き出ていた。


「アントライオンは、巨大な蟻地獄みたいな魔物か」


 ただ、大きさがドラゴン並みの、メチャクチャなサイズではあるが。

 それから、ザシャが船を少し持ち上げて宙に浮き……揺れが収まった。

 あとは、あの魔物を何とかしないとな。


「レヴィア。あの魔物に攻撃出来るか?」

「……出来るけど、本気の魔力放出は無理。アレックスの子種がもっと欲しい」

「本気でなくて良いし、無理しない程度で頼む」

「……ん。わかった。あとで、また子種よろしく」


 そう言って、レヴィアが巨大な水の弾を放つ。

 水弾が凄い速さで牙の根元に向かって飛んで行き……二本の牙が見えなくなった。


「よしっ! 流石レヴィアだ」

「……手応えがない。避けられた」

「えっ!? 今のをか!?」

「……うん。十中八九、水が当たる前に砂の中へ逃げた。しかも、レヴィアたんの水は砂に遮られて、殆どダメージになってない」


 あの速度の攻撃魔法を避けるのか。

 しかも、砂の中に潜られたら、どこに居るのかもわからない。

 これは……かなりやっかいだな。

 水中ならスキルで呼吸が出来るものの、砂の中で呼吸は出来ないし、降りて戦う事も出来ないか。

 そう思っていると、突然船の高度が上がっていく。


「ザシャ。どうしたんだ?」

「アレックス。さっきの奴が、この真下に移動している。狙われているぞ」


 ザシャが飛行魔法で船を高く持ち上げた直後、船の真下からアントライオンが姿を現した!


「きゃあっ!」

「くっ……」

「むぅっ! 結界の外から攻撃して、船を揺らすとは……こやつ、かなり強いのじゃ」


 砂の中から飛び上がったアントライオンが、二本の牙でミオの結界を攻撃してきたようだが、ここまで届くのか。

 どうする? このままザシャに海まで戻ってもらい、一旦出直すか?

 何か倒す手立てがあれば良いのだが、現時点で妙案はない。

 このアントライオンを倒しておかないと、魔物を村へ誘導してしまう事になるので、村へ向かうのはダメだし……


「ご主人様! このモニカに策があります!」

「どんな手段なんだ?」

「はい。レヴィア殿の水弾を避けた事から、奴は水が苦手とみました。ですので、水の性質があり、かつ全ての魔物を倒す力を持つ……私の聖水を使いましょう! きっと奴を倒す事が出来ると思います」


 モニカが自信満々に言っているが、これは冗談で言っているのか、本気で言っているのか、どっちなんだ!?

 とりあえず、あのアントライオンが水を苦手としているかどうかはわからないぞ?

 例え、水が苦手でなかったとしても、あの速度でレヴィアの水弾が当たれば、かなりのダメージになるだろうし、避けられるのであれば避けるだろうしさ。


「ご主人様。いかがでしょうか」

「……具体的にはどうするつもりなんだ?」

「はい。ご主人様に抱えていただいて、船の上から聖水を……あ、でも、砂漠で喉がカラカラですし、水分補給が出来ておりません! ご主人様、私に御聖水をいただけませんか!?」


 いや、聖水を作るスキルを持っているのはモニカだろうに。

 とりあえずモニカの案を却下し、どうするか再び考える事にした。

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