第653話 駱駝耳族の少女
「あ、あの、私は駱駝耳族のファビオラと申します。あ、貴方様にいただいたモノ……もっと欲しいです」
「俺はアレックスだ。その、暗闇の中での事は責任を取らせてもらうつもりだが……一つ教えて欲しい。ファビオラは、どうしてこの家の中に入って来たんだ?」
「……あ! そ、そうでした! 皆さん! ここから早く離れてくださいっ! ここはドラゴンでさえ逃げ出すと言われる、死の砂漠です! この先には海しかありません!」
いつの間にか家に居た女性はファビオラというそうで、獣人族らしく頭から獣耳が生えていて、あとまつ毛が凄く長い。
ノーラよりも少し大きいくらいの体型なのだが、ノーラと決定的に違うのが胸……だろうか。
駱駝耳族だと言っていたし、コブの代わりに胸が膨らんで居たりするのかも。
初めて出会う駱駝耳族を観察していると、突然ファビオラが顔を赤らめる。
「あの、そんなに胸ばかり見て……あ、あの。どうぞ。もう貴方のモノですので、好きに触ってください」
「すまない。そういうつもりではなかったんだ」
「ご主人様! 私も同じくらいの大きさですっ! 揉むなら是非私のをっ! というか、本当に何もしていただいていないんですよっ!」
俺とファビオラの間に胸を露出したモニカが割り込んで来たが……何をしているんだ?
というか、ファビオラは逃げろって言っていたのでは?
「ファビオラ。俺たちはその海からやって来たんだ。この先に村があるらしいので、そこへ行きたいんだが」
「ご案内します! ですから早くっ! この砂漠は、非常に危険な魔物が現れるんです!」
「……ドラゴンが逃げるっていうのは、その魔物のせい? ドラゴン、魔物如きから逃げたりしない」
ファビオラの説明を聞いて、レヴィアがかえってここに残ろうとし始めた。
レヴィアの気持ちもわからなくもないが、今は逃げないか?
おそらく、ファビオラは無謀な場所に家を出した俺たちを見つけ、逃がそうとして家を尋ねて来てくれたって事だろ?
まぁ、その家がザシャの闇に覆われていて、俺の分身が誤って襲ってしまったわけだが。
「ドラゴンが実際に逃げるかどうかは私も知りませんが、村ではそう言われているんですっ! というか、どうしてドラゴンにそこまで肩入れするんですかっ!?」
レヴィアが竜人族である事を伝えれば、このファビオラの疑問は氷解すると思うのだが、話がややこしくならないだろうか。
そんな事を考えていると、モニカが口を開く。
「ファビオラ殿。レヴィア殿は竜人族のなので」
「えぇっ!? り、竜人族って、あの竜人族ですかっ!?」
「おそらく、その竜人族だ」
モニカの回答で、ファビオラが俺の背に隠れ、レヴィアをチラチラ覗き見る。
これは……レヴィアを怖がっているのか?
「レヴィア……」
「……ん、大丈夫。慣れてる」
そう言いながら、レヴィアが少し寂しそうにしている気がしたので、招き寄せて抱きしめると……いや、咥えてくれという意味じゃないっ!
いや、いろいろと唐突過ぎて、ズボンを履き忘れていた俺も俺なんだが。
「ご主人様、ズルいですっ! 私もっ!」
「……おいひぃ」
「り、竜人族……? わ、私もしてみたい……です」
モニカがレヴィアを見て、混ざり始め、それを見たファビオラも俺の足下にしゃがみ込み、マジマジと俺の見つめ始めた。
正面にレヴィアが座り、左右にモニカとファビオラが居て、先程のレヴィアへの恐怖みたいなのが無くなっているのは良いのだが、三人でチロチロと……いや、こんな事をしている場合では無いのでは?
「ファビオラ。ここは非常に危険な魔物が現れるのでは?」
「あっ! そ、そうでした! 皆さん、早く……で、でも、この芳醇な香りが気になってしまいます」
「うむ。その気持ちはよくわかるのじゃ。アレックスよ。先程は時間が短かったのじゃ。という訳で分身するのじゃ」
いや、ミオまで何を言っているんだ?
というか、いつの間にかモニカが居た場所にグレイスが居て、モニカは……後ろかっ!
って、何処を……四人を止めようとしたところで、船が大きく揺れ始めた。
「あぁっ! これは話に聞いた通り……魔物が来ちゃいましたっ! アントライオンですっ!」
アントライオン? 聞いた事の無い名前だと思っていたら、船が更に激しく揺れだした。
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