第120話 勝負を挑まれるアレックス

「おはようございます。お食事の準備が整っておりますので、皆様どうぞお越し下さいませ」


 サクラに頼んで皆よりも早めに起こして貰い、ソフィとサクラにも朝のアレを飲まれた所で、リザードマンが迎えにやって来た。


「エリー、起きてくれ。モニカも……って、何で全裸なんだよっ!」

「アレックスー! あれー? 居ないー?」

「ユーディット。もう朝ご飯だから、寝ぼけてないで目を覚まして……って、スカート! スカートが捲れてるっ!」


 サクラとソフィにも手伝ってもらい、皆を起こしてリザードマンと共にヌーッティさんの家へ。

 昨日とは少し違い、パンと野菜中心の食事をいただいた所で、


「邪魔するぞ。ヌーッティ、人間族が来ているという噂が……どうやら本当のようだな。人間族の匂いがする」

「む……ウリヤスか」


 突然ウリヤスと呼ばれた大きなリザードマンが入って来た。

 俺よりも二回り程大きく、身体中に傷のある歴戦の猛者といった感じのウリヤスは、ドスドスとヌーッティさんに近付いて来て、


「人間族で一番強い個体は……お前か。俺と勝負してもらおうか」


 俺に向かって、鋭利な爪を向ける。


「おい、ウリヤス! 客人に失礼だぞっ! それに、お前は感じないのか!? この方が秘める巨大な力を」

「うるさい! だからこそだ。俺はリザードマン最強の戦士、湖東の村のウリヤス。例えどれだけ強大な力を持つ相手だとしても、負ける訳にはいかんのだっ!」


 さて、どうしたものか。

 勝つか負けるかよりも、俺はリザードマンの村と友好的にしたいのだが。


「アレックス殿。申し訳ないのだが、血の気の多い此奴に、少し力を見せてやってくれないだろうか」

「それは、つまり……」

「あぁ、完膚なきまでに倒してもらって構わんので」

「まぁヌーッティさんがそう言うなら」


 仕方なく立ち上がると、


「アレックス様。ここは拙者が……」

「いや、大丈夫だ。任せてくれ」


 サクラが小声で交代を申し出てきたのを断り、俺とウリヤスが家の外へ。

 そこには、どこからか話を聞きつけてきたのか、それともウリヤスが連れて来たのか、大勢のリザードマンが周囲を取り囲んでいた。

 二人で前に進むと、自然と人垣が輪になり、


「さて……では、行くぞっ!」


 先ずはウリヤスから仕掛けてくる。

 武器は両手の爪と、太い尻尾。

 先ずは右手の爪を盾で防ぎ……あれ? 動きが止まったぞ?


「ぐぅぅ。俺の爪が……だが、まだこれからだっ!」


 左手の爪で攻撃してきた……と見せかけ、太い尻尾が俺の足元をなぎ払う! ……が、妙に攻撃が軽い。

 転ばされる事もなく、ただ絡みつくだけの尻尾を離そうと、軽く足を振ったら、


「うおぉぉぉっ!?」


 何故かウリヤスの身体が上に吹き飛んだ。

 えーっと、かなりの高さまで上がったな。

 ……って、このまま落ちたら危ないんじゃないか?


「エリー、モニカ! 風の魔法で、ウリヤスを湖へ落ちるように吹き飛ばしてくれ!」

「う、うんっ! ≪トルネード≫」

「って、おい! エリーっ! 流石にその魔法は強力過ぎるだろっ!」

「だ、だって、アレックスが吹き飛ばせって言うから! 私、風の魔法ってそんなに得意じゃないもんっ!」


 エリーが竜巻を起こし、ウリヤスの身体が激しい回転と共に、益々上空へ上がっていく。


「も、モニカ! ウリヤスが落下してきたら、風の魔法で湖へ落とすんだぞ! エリーみたいに竜巻は起こすなよ!?」

「大丈夫です。私は、竜巻なんて起こせませんから」


 ハラハラしながら小さくなったウリヤスを遠目に見つめ……エリーの生み出した竜巻が消えた!

 そして、ウリヤスの身体が落下してくる。


「頼むぞ、モニカ! ……ヌーッティさん! 申し訳ないが、ウリヤスが湖に落ちたら、助けてもらえないか?」

「承知した。まったく、あのバカは……」


 ウリヤスの落下速度が速くなり、かなり大きく見える様になった所で、モニカが準備していた魔法を放つ。


「≪ミドル・ウインドカッター≫」

「って、どうしてそのチョイスなんだよっ! 衝撃波とか、強風の魔法で吹き飛ばして欲しいんだ! どうして、風の刃なんだよっ! 真っ二つになるだろっ!」

「しかし、私も風の魔法は余り得意ではなくて……てへっ」


 てへっ……じゃないっ!

 幸い、ウリヤスの身体は真っ二つにはならず、僅かに湖側へ動いた。

 だが未だ少し足りず、あと数秒で地面に激突してしまう。

 仕方が無い……一か八かだっ!


「≪ミドル・ヒール≫」


 ウリヤスに治癒魔法をかけつつ、


「とりゃぁっ!」


 落ちて来たウリヤスの身体に思いっきりタックルすると……その巨体が真横に――湖の真ん中くらいまで吹き飛んだ。

 慌てて数人のリザードマンたちが救助に向かい……何とか大丈夫だったらしい。


「リザードマンって見た目とは違って、身体が軽いんだな」

「あの、単にアレックス様の身体能力が規格外なだけでは?」

「いやいや、そんな事はないぞ? まぁ体力には自信があるけど、それだけだな」

「……さっきの尻尾攻撃は、かなり強烈だったと思うのですが……」


 サクラが困惑しているが、あれは見掛け倒しで、そんなに大した攻撃じゃなかったぞ?

 いや、本当に。本当だってば。

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