第121話 アレックスに弟子入りを申し出るウリヤス

「≪ミドル・ヒール≫! お、おい……大丈夫か?」


 数人のリザードマンによって湖からウリヤスが引き上げられたので、治癒魔法を使いつつ様子を伺っていると、


「はっはっは。うむ、負けたな。もう少し善戦出来るかと思ったのだが、まさか赤子の手をひねるように負けるとは」

「あー、すまない。大丈夫か?」

「もちろんだ。しかも、地面に激突しそうな所を助けてもらって……まぁ正直な所、地面に落ちるよりタックルされた方がダメージが大きい気もするが、一先ず無事だ」


 タックルって、俺がウリヤスを湖にまで吹き飛ばしたアレの事か?

 いやいや、竜巻に吸い上げられ、あの豆粒みたいな高さまで舞い上がっていたんだ。

 流石に俺のタックルなんかよりも、落下ダメージの方が大きいだろう。


「さて、人間族の……ふむ、アレックス殿と申すのか。どうか私を弟子にしていただきたい!」

「え? いやいや、弟子ってどういう事だ!?」

「俺はリザードマンの中で最強を誇っていたが、アレックス殿に手も足も尻尾も出ずに負けたからな。更なる高みへ昇る為、是非弟子にしていただきたいのだ」


 そう言われても、俺はパラディンだしな。

 守りが主体なのに、どうしろと。

 それに、悪いが俺が強いのではなく、ウリヤスが弱かっただけだと思うのだが。


「悪いが俺には、西の壁の上を開拓するという任務があるんだ。申し訳ないが、弟子というのは無理だ」

「くっ……あの拒絶の壁の上か。リザードマンの俺には行くだけで命がけ……というか、行っても水辺が無ければ生きられないか。……ではせめて、アレックス殿の強さの秘密を教えていただきたい!」


 強さの秘密?

 魔物を食べたら強くなる……って言ってもなぁ。

 これはエクストラスキルのお陰だし、同じ事をしたところで、強くなれるとは思えない。

 どうしたものかと思って、助けを求めるようにエリーたちへ目を向けると、


「アレックスの凄いところは、やっぱり体力じゃないかしら?」

「マスターの凄さは、桁外れな魔力の多さかと」

「拙者は回復力ではないかと。あの回復力があるからこそ、大勢を相手に出来ていると思う」


 エリー、ソフィ、サクラがそれぞれパラディンの特徴を挙げる。

 いやでも、体力と魔力の多さはパラディンの話だが、回復力についてはエクストラスキルで得た物だから、ちょっと微妙な気もするが。


「ご主人様の凄さは、何と言ってもあの大きさではないかと。……まぁ他の者と比較した事がないから正確な所は分からないのだが、大きいのではないかと思う」

「しかし、アレックス様のが大きいのは拙者も認める所だが、あの人数を満足させているのだ。やはり回復力が重要なのでは?」

「それを言うなら、愛の大きさじゃないかしら。私たちを愛してくれているからこそ、毎晩頑張ってくれている訳だし」


 ……って、おい。

 モニカが変な事を言い出したから、話がおかしくなっただろっ!

 サクラとエリーも、そんな話を広げなくて良いよっ!


「皆の話を纏めるとー……愛する者が居れば強くなるって事なのかな?」

「そうだな。ユーディット殿の言う通り、ご主人様は、愛する者が多ければ多い程、強くなる。うむ、間違いないだろう……つまり、ユーディット殿もご主人様に愛してもらえば良いのではないだろうか」


 ……って、ユーディットはともかく、モニカは何を言っているんだよっ!


「あはは、そうだね。アレックス……私もアレックスのお嫁さんにしてー」

「おいおい、ユーディット。モニカに言われたからって……」

「ううん、違うの。モニカには前から相談していて、色んなアピールをしていたんだけど、アレックスが気付いてくれないから」


 ユーディットからアピールされていた!?

 いや、全く気付かなかったんだが。


「なるほど。アレックス殿は、ここにいる人間族の女たちの殆どを娶っているという事か。では俺も、強くなる為に妻を沢山娶ろう! ……そこの女性よ。この俺と子を……ごふぅ! そちらの女性よ、俺に卵を……ぐはぁっ!」


 いや、何か発想がおかしくないか!?

 リザードマン最強の戦士と言いながら、リザードマンの女性に……その旦那さんにもか? ウリヤスが蹴り倒されているのだが。


「ダメだよねー。リザードマンは一夫一妻制なんだから、この人だって決めた女性だけに尽くさないと。ね、アレックス」

「……ソーデスネ」

「どうしたの? アレックスは今のままで良いんだよー? 沢山の女の子を愛して幸せにしてあげてね。もちろん、私もっ!」


 無邪気なユーディットに抱きつかれながら、色々考えさせられる事になってしまった。

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