第328話 女児に囲まれるアレックス

 ギルドマスターの女性が俺から目を逸らしたので、少し揺さぶってみる事に。


「わかった。では、ポーションが出来上がったらまた持って来る事にしよう。おそらく、十日もあれば作れるだろう」

「えぇっ!? ほ、本日はお持ちではないのですかっ!? それに十日も……な、何とか、もう少し早くお持ちいただく事は出来ないでしょうか」

「どうしてそんなに急ぐ必要があるんだ? マジック・ポーションは市販品もあるだろう?」

「そ、その通りですが、少しでも運べる量を増やしたいと……」


 運べる量を増やす? 何の事だ?

 マジック・ポーションを沢山運ぶという意味なのか?


「何をそんなに運びたいんだ?」

「……す、すみません。それは我々も知らないんです」


 うーん。これは、本当っぽいな。

 別の誰かから何かを依頼されている……のか?


「とりあえず、話はこんな所だな。ポーションは、なるべく早く持って来るようにしよう」

「な、何卒……よろしくお願いいたします」


 ギルドマスターが搾りだすようにして言葉を発しているが、本当に大丈夫なのだろうか。

 一先ず、部屋から出て受付で暫く待ち、最初に話をした受付嬢が戻って来た所で、声を掛ける。


「さっきは悪かったな。様子が変だったから、少し様子見させてもらった。とりあえず、ポーションは持って来ているから、買い取ってくれ。価格もこれまでと同じで構わない」

「えぇーっ! お父さん。せっかく言い値で良いって言ってるんやから、もっとふっかけようやー! とりあえず、百倍くらいの値段に」

「流石にやり過ぎだ。というか、これまでの価格でも十分高額だからな……って、おい。大丈夫か?」


 レイの人形、レナと話して居ると、いつの間にかカウンターの向こう側に居た女性が、へなへなと床に座り込んでいた。


「どうしたんだ? 手を伸ばせるか?」

「あ、ありがとうございます。すみません。実は今回の件、事情がありまして……いろいろと失礼な対応となってしまい、申し訳ありませんでした。そして、こちらのポーションは是非買い取らせてください。本当に……助かります」

「一体、何があったんだ?」

「いえ、これは商人ギルド側の話ですので、巻き込む訳にはいきませんので」

「いや、既に巻き込まれている感じがするんだが」

「う……そ、そうですね。すみません。では、あちらの部屋でご説明いたします」


 そう言って、さっきとは違う小部屋に通される。


「改めて、申し訳ありませんでした。先程、当ギルドの長の様子がおかしかったのは、あの部屋がマジックアイテムで遠方から監視されていたんです。ステータスアップ・ポーションの作り手が来たら、見せろと……」

「監視……マジックアイテムでそんな事が出来るのか」

「はい。音声が聞かれていたのと、部屋の隅から見られておりました。とはいえ、我々ギルド職員が間に立ち、アレックス様たちは見えないようにしておりましたので、ご安心ください」

「あー、それであんなに職員が大勢いたのか」


 確かに通話魔法を使えば、声は全て聞こえるだろうし、遠くからあの部屋を見るという魔法は知らないが、ソフィならそんなマジックアイテムだって作ってしまえそうだ。

 おそらく、ソフィと同じマジック・エンジニア――マジックアイテムを開発するジョブの者が作ったのだろう。


「で、一体何が起こっているんだ?」

「……実は、ある大きな組織に、シーナ国の商人ギルドが脅されておりまして」

「商人ギルドが脅されるとなると、それより大きい組織か、もしくは武力に特化した組織。または、その両方……か」

「おそらく。脅されているのは商人ギルドの本部でして、この一地方の支部では詳細は分からないのですが……うちのギルドマスターが、シーナ国の商人ギルドの本部からかなり色々と言われているようでして」

「なるほど。シーナ国で商人ギルドより大きくて、脅して来そうな組織と言えば、闇ギルド……か?」

「……可能性はあるかもしれませんが、すみません。本当に知らないのです」


 ふむ。元兎耳族の村から――シーナ国の東側から回り込んで、皆で入国するつもりでいたが、悠長な事をしている状況ではないのかもしれないな。


「わかった。では、シーナ国の商人ギルドの本部の場所……は言えないのか」

「はい。というより、私も本部の場所は知らないのです」

「方角くらいは教えてもらえないだろうか?」

「ど、どうされるおつもりですか!?」

「ちょっと、闇ギルド……かどうかは分からないが、直接話し合って来よう」

「だ、ダメですよっ! アレックス様に何かあったら……」

「大丈夫だ。こう見えて、そこそこ強いからさ」

「えぇー。あの、そんなに幼い女児ばかりお連れになって行くのでしょうか?」


 ……言われて見てみれば、俺の膝の上にレヴィアが座り、横にはレナとツキが。俺の背中にはマミが抱きついていた。

 唯一、成人に見えるのは、レナの更に隣へ座っているジュリだけか。


「だ、大丈夫だ。この子たちも強いから」

「ジュリさんがお強いのは知っていますが、居なくなってしまうと自警団がマズい事になってしまうと思うのですが」

「な、何かしら手は打とう。だから、心配しないでくれ」


 物凄く困惑した様子の職員さんから、シーナ国の商人ギルドの本部が、かなり南にある大きな街だと聞いたので、闇ギルド撲滅の為に一先ず隣の街へ向かう事にした。

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