第60話 新しい住人のフィーネの困った行動

「≪リフレッシュ≫」


 自身の状態を治し、小屋へと戻る。

 どうやら、本格的に変化してしまう前なら、状態異常回復魔法で何とかなるようだ。

 エリーたちにしてもらっていた時は、何度この魔法を使っても無駄だったが。


「アレックスさん。今、居られますか?」

「あぁ、居るぞ。エリーたちは居ないが」

「なるほど。でしたら、丁度良いかもしれませんね。前にお話しした通り、今からそちらへ新米冒険者をお送りするのですが、本当にジョブを授かった直後……つまり、成人になったばかりなんです」

「十五歳という事だな?」

「はい。ですので、モニカさんとの夜の営みは、見つからないように、こっそりしていただければと」


 一体タバサは、俺をどういう目で見ているのだろうか。

 ただ、昨日までの俺なら反論したけれど、シェイリーの社での事があっただけに、何も言えないが。


「あ、別に見つからない分には構わないんですよ? モニカさんに首輪をつけて全裸で散歩させようが、モニカさんに目隠しして、そのまま朝まで放置しようが」

「……タバサ? 何を言っているか理解出来ないんだが」

「えっ!? アレックスさんは、モニカさんにご主人様って呼ばせているんですよね?」

「呼ばせているというか、モニカが勝手にそう呼んでいるんだが……それと、さっきの話に何の関係が?」

「あれ? 違うんですか? 巨乳エロ駄メイドプレイって、そういうのかと思ってました。あ、モニカさんは胸が大きいですし、搾乳プレイ……もしくは授乳プレイとか?」


 あー、そう言えばモニカは胸元が大きく開いたメイド服姿で来たもんな。

 あの姿をタバサも見ているから、変な想像を……って、想像がぶっ飛び過ぎだろっ!


「とりあえず、そんな事はしていないし、しないから安心してくれ」

「分かりました。では、すみませんが、新米冒険者……フィーネちゃんの事を宜しく頼みます」

「ん? フィーネちゃん!? 来るのって、女の子なのかっ!? タバサ!? タバサーっ!?」


 タバサはギルドの一番奥の部屋、魔法陣へ移動してしまったらしく、通話魔法が終了する。

 くっ……ちゃんと来る者の性別を聞いておかなかった俺が悪いのだが、勝手に男が来るのだと思っていた。

 とはいえ、今更止める事も出来ず、そのまま待機していると、小屋の中心が白く輝き、エリーよりも少し背の高い、杖と小さな鞄を持った女の子が現れる。


「ここが魔族領……あっ! 貴方がアレックスさんですかっ!?」

「あぁ、そうだ。ようこそ、フィーネ。これから宜しく頼むっ!」

「会いたかったですっ! アレックスさん……ううん、アレックス様っ!」


 フィーネは初対面だというのに、人懐っこく抱きついて来た。

 同じ抱きつくでも、ノーラとは全然違う理由だが……しかし、背が高い割に声と顔が幼い。

 何だか、随分とアンバランスな気がする。

 ……って、待った。

 最近、皆に抱きつかれているからか、フィーネの行動に何の違和感も覚えなかったけど、これって普通じゃないよな。


「フィーネ。とりあえず、一旦離れ……」

「あれ? 何だろう、この匂い? 何だか……凄く、気になります」

「フィーネ? 何を……フィーネっ!?」


 俺が離れろと言う前に、フィーネが自ら離れたものの、くんくんと何故か俺の身体を嗅ぎだす。

 止める間も無くフィーネの顔が下へと降りていき、


「ここ……かな? うん、この匂いっ! 何だか、凄く好きな匂いですっ!」

「いや、何処を触って……そんなトコに頬擦りするなっ!」


 俺のズボンに顔を擦り付けてきた。


「アレックス様ー、ダメですかー?」

「ダメだっ!」

「じゃあ……せめて、この匂いが何かを教えて下さい! フィーネは、自分でもどうしてこの匂いが好きなのか、分からないんです」

「ど、どういう事だ?」

「フィーネも分からないんです。ただ、身体の奥底から、この匂いを求めていると言うか、何故かもっとこの匂いを嗅ぎたくなっちゃっているんです」


 俺、毎日風呂に入っているんだけどな……って、まさかアレの匂いか!?

 さっきエリーたちによって大量に出してしまった、アレの……でも、その割には一切恥ずかしがらないというか、本当に何か分かっていない?


「えーっと、フィーネは確か十五歳だよな? 学校は通っていた……よな?」

「違いますよー。学校には通っていたけど、フィーネは十三歳ですー」

「えっ!? 十三歳っ!? でも、ジョブは授かっているんだよな?」

「うん! ウィッチです。と言っても、魔法もスキルも使えないんですけどね」


 いやいや、人間は皆十五歳でジョブを授かると決まっている。

 ジョブを授かれば成人となるんだけど……待てよ。

 ニナは十三歳でジョブを授かったって言っていたよな。

 種族によってジョブを授かる年齢が違うって事は、フィーネは人間とは別の種族って事か!


「フィーネ。変な事を聞くが、種族は?」

「え? 考えた事もないけど、人間だと思いますよ?」

「……お父さんかお母さんが、ドワーフとか獣人族とかって事は?」

「フィーネのお母さんじゃないけど、もう一人のお母さんは、獣人族でしたよ?」


 もう一人のお母さん?

 どういう事だ!?

 複雑な家庭みたいだから、あまり触れない方が良いのか? と、考えていると、


「いや、だから、そんなトコは触っちゃダメなんだっ!」

「えぇーっ! ちょっとだけ……ちょっとだけで良いですから、この匂いの元を直接嗅がせてください」

「絶対にダメだーっ!」


 いつの間にか、俺のズボンを下ろそうとしていたので、注意しておいた。

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