第66話 夢を見せるスキル 

 まさかフィーネがサキュバスの子だったとはな。

 俺が知っているサキュバスは、人間の男に取り憑き、精力を搾取し、少しずつ衰弱させて殺してしまう悪魔で、避妊スキルにより妊娠はしない……という話だった。

 だが一方で、本気で男に惚れ、避妊スキルを使わずに人間と子供を作るサキュバスが居るという噂も聞いた事がある。

 フィーネは後者……さしずめハーフサキュバスといった所か。


「えへへー。アレックス様、大好きー……」


 いや、どんな寝言だよ。

 フィーネに性知識は殆ど無いのに、アレを求めてくるのは、サキュバスの本能なのだろう。

 つまり、本能のままに行動すると、将来フィーネが誰かを不幸にしてしまう可能性がある。

 逆に言えば、俺から十分な精力を得られる事が出来れば、フィーネが誰かを不幸にしてしまう事はないはずだ。

 フィーネを守る為に、サキュバスの本能を満足させる……絶倫スキルと超回復スキルを持つ俺なら、出来るはずっ!

 問題は、幼く性知識の無いフィーネに、アレを飲ませる行為を、皆にどう説明するかだ。

 フィーネはサキュバスの子である事を皆に言いたがらないだろうし、それを隠しつつアレを……うーん。どうしたものか。


 しかし、最悪サキュバスの本能で俺のアレを求めて来ても、皆に迷惑を掛けないように……と、小さな寝室へ連れて来たのだが、無用の心配だったな。

 そんな事を考えながら、俺の隣で幸せそうに眠るフィーネの顔を眺めていると、俺もいつの間にか眠ってしまって……


「アレックス様! おはようございますっ!」


 俺の胸にダイブしてきたフィーネに起こされる。


「ん……おはよう、フィーネ。……って、何だか随分とご機嫌だな」

「え? えへへ。それはですねー、アレックス様が眠っている間に……あ、やっぱり何でもないですー」


 何だろう。

 おそらく、俺が眠っている間にフィーネが何かしたんだろうな。

 まぁ俺の身体に何も変化がないから、別に構わないが。


「とりあえず、皆の所へ行こうか。朝食にしよう」

「そうですね。フィーネは、いっぱい飲みすぎてお腹いっぱいですけど、別腹ですよねー」

「いっぱい飲んだ……って、まさかフィーネ……」

「えへっ。ご馳走様でしたっ! アレックス様」


 マジか。

 三人掛かりで相手をしてもらっているのに、それをフィーネ一人で。

 しかも、ベッドが全く汚れていないから、全部飲み干したって事なのかっ!?

 大丈夫なのかと思いつつも、フィーネは何とも無さそうなので、そのまま皆を寝かせた寝室へ移動したのだが、


「……って、フィーネ。誰も起きていないんだが」


 誰一人として目覚めていなかった。


「あ、あれ? おかしいなー?」

「フィーネ……大丈夫なのか!?」

「うん、大丈夫! だって、アレックス様から出て来る、不思議な液を沢山飲んだもん。今のフィーネは、昨日のフィーネとはちょっと違うんだー……≪夢の終わり≫」


 おそらくサキュバスのスキルなのだろう。

 フィーネが聞き慣れないスキルを違うと、


「あ、あれ……ここは? アレックスとの新居は?」

「……あれは、夢だったの? せっかくエルフの長老にアレックスさんとの結婚を許可させたのに」

「お兄さん。二人の子供の名前は何に……って、あれ? え、もしかして、夢!? そんなぁ」


 皆が一斉に起きて来たけど、エリー、リディア、ニナと、皆がっかりしている。

 余程良い夢を見ていたのかと思っていると、


「ご、ご主人様っ! おやめ下さいっ! そこは……そこは挿れる所ではなく、出す所……はっ! なんだ、夢か」

「って、モニカはどんな夢を見ているんだよっ!」

「ほ、本物のご主人様!? ……良かった、本物だ。あの、ご主人様は、お尻に……」

「すまん。やっぱり説明しないでくれ」

「いえ、私は決して興味が無い訳ではないのです。ですが、希望としては後ろよりも先に……」


 モニカだけは一人うなされていると思ったのだが、そうでも無かったようだ。

 とりあえず、突っ込んだら負けな気がするので、スルーで。


「ふふっ、お兄ちゃん。木登りならボクの勝ちだね……あ、あれ? お兄ちゃん!? おはよー!」


 何て言うか、ノーラだけは微笑ましい普通の夢を見ていたらしい。


「あれー? ボク、昨日いつの間に寝ちゃったんだろ。晩御飯食べたかなー?」

「昨日は魔物と戦ったりして、皆疲れていたからな。そのせいで、寝てしまったのだろう」

「んー、そうなのかなー?」


 どうやら、フィーネが使ったサキュバスのスキルについては覚えていないようだ。

 後は、フィーネに変な事をさせないように言えば、大丈夫……か?


「あの、アレックスさん。昨日は、何故か眠ってしまったみたいで、その……お風呂へ行って来ても良いでしょうか。恥ずかしながら、お風呂へ入らずに眠っていたみたいで」

「あ、私も入ってない気がする。というか、リディアさんが入っていないって事は、アレックスも入っていないのよね? 一番、汗をかいたのはアレックスだと思うし、お風呂へ行くわよ!」

「言われてみれば……って、おい。エリー、ここで脱ぐのかよっ!」


 一応、今までは女性陣が服を脱いだ時は見ないようにするというルールがあったはずなのだが、


「あ……そっか。こういう関係になったのは、私とモニカさんくらいだっけ」

「違いますよ。私もです」

「に、ニナもだよー」


 エリーに続いて、張り合うようにリディアとニナも服を脱ぐ。


「ボクは、お兄ちゃんの前で裸になっても平気だよー!」

「フィーネも、アレックス様になら、全てを見せられますー」

「ふっ……全裸など当然。私は、ご主人様の前で聖水だって作れるぞ」


 モニカだけ発言が群を抜いておかしいのはさて置き、みんな裸を見られて平気っていうのも、どうなんだ?

 しかし結局誰も身体を隠さず、俺もニナとノーラに服を脱がされ……全員で風呂へ入る事になってしまった。

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