挿話30 覚醒するウィッチのフィーネ

 私の身体が求める、不思議な匂いの元を調べるべく、アレックス様の元へ。

 エリーさんやリディアさんが何か言っているけど、もうフィーネは止められない。

 だって目の前に、あの素敵な匂いの元があるんだもん。


「お、おい。フィーネっ!?」


 アレックス様、ごめんなさい。

 フィーネは、匂いを嗅ぐだけじゃ我慢出来なくなっちゃいました。

 何故かはフィーネも分からないですけど、この匂いの元が、この棒から吸い出せるって、分かっちゃうんです。

 そんなに量はないけど、思った通り何かが出て来たから、それを飲み込むと、突然、フィーネの頭にお母さんの言葉が甦る。


『フィーネ。お母さんは、夢魔族っていう種族なの。それでね、お父さんは人間族だから、フィーネには半分夢魔族の血が流れているの。でも、この夢魔の力はフィーネに未だ早いから、貴女が本当に好きな人のを口にするまで、力を封印するわね』


「こ、これは……思い、出したっ!」


 そうだ……お母さんは、これ以上お父さんと愛し合うと、お父さんの身体が危険だからって、家を出たんだ。

 人間の男性は、体力と精力に限界があるから、愛し合うのは一日十回くらいに抑えておきなさいって、お母さんが言ってたっけ。

 ……待って!

 でもアレックス様は、朝からエリーさんやフィーネとキスをして、今もノーラさんから何回もキスされてる。

 ダメっ! そんなに沢山愛し合ったら、お父さんみたいにアレックス様が倒れちゃう!


「≪夢見る少女≫」


 思い出した夢魔のスキルを使い、フィーネ以外の女の子を眠らせると、


「これは……フィーネ。何をしたんだ?」


 アレックス様が尋ねてきたけど、どうしてノーラさんを抱きかかえたままなんだろ?

 もしかして、アレックス様はフィーネよりノーラさんの事が大切なの!?


「あ、あの……どうして、アレックス様はノーラさんを抱きしめたままなんですか?」

「どうしてって、どういう訳か急にノーラが眠っしまったからな。落ちたら危ないだろ?」

「あ、そっか。流石アレックス様です。優しいんですね」

「優しい……のか? それより、フィーネ。さっきは、何をしたんだ?」


 アレックス様がフィーネをジッと見つめて……怒っている訳では無さそう。

 ただ、何が起きたのかを知りたいみたい。

 アレックスさんがノーラさんを抱きかかえたまま、片手で棒を仕舞おうとして……大変そうだからフィーネもお手伝いして、質問にお答えする事に。


「あの、さっきアレックス様の匂いの元を直接嗅いで、その……どんな味か知りたくなっちゃったんです。それで、どうしてかは分からないんですけど、吸えば出てくるって思って。それで、吸った物を飲み込んだら、フィーネのお母さんの言葉を思い出して。それで、スキルの事も思い出して……」

「要約すると、俺の身体から出た物を飲んだら、忘れていた事を思い出して、スキルが使えるようになった……という事か?」

「はい、そんな感じです。それで、フィーネのお母さんが、男の人は一日に十回以上愛し合うと、身体を壊すって言っていたから、皆をスキルで眠らせて、アレックス様を守ったんです」

「まぁ、普通は一日に十回も出せな……こほん。そのスキルっていうのは、ウィッチのスキルなのか?」

「いえ、そうではなくて、お母さんの――夢魔族っていう種族のスキルで、女の子だけを眠らせるスキルを使いました」

「夢魔族……つまり、サキュバスって事か」


 サキュバス……って何だろう。

 フィーネは夢魔なんだけどな。


「分かった。フィーネは……お母さんの事を思い出したと言っていたが、これからどうしたいんだ?」

「どうしたい……って、ここで修行させて欲しいです。だって、フィーネはアレックス様の妻だもん」

「そうか。ならば、フィーネは俺が守る。だから、さっきフィーネが飲んだ物……あれは、絶対に俺からしか飲んじゃダメだ。将来、他の男性に会う事があっても、俺からしか飲んじゃダメだぞ」

「分かりましたっ! よく分からないですけど、アレックス様がそう仰るなら、そうします! という訳で、もっと飲ませてもらっても良いですか? 何故かは分からないんですけど、フィーネの身体が、アレックス様のアレを欲しているんです」


 そう言うと、アレックス様が小さく溜息を吐いた後、


「わかった。ただし、皆を起こしてからな。いくらフィーネがサキュ……夢魔族だとしても、きっと一人では無理だと思うんだ」


 どういう訳か、皆を起こすって言いだした。


「だ、ダメですよっ! さっきもノーラさんがアレックス様に沢山キスしていました。フィーネは、アレックス様に倒れて欲しくないんですっ!」

「……まだエリーから教えてもらってないのかもしれないが、キスでは倒れないから安心してくれ」

「えっ!? でも、フィーネのお母さんが……」

「……えっとだな。その……そう、俺は超回復というスキルを持っているんだ。だから、俺は普通の人とは違って、十や二十くらいでは全く平気なんだ」

「そういう事なんですね。分かりました! じゃあ、皆を起こしていきましょう」

「あ、一気に起こすスキルとかは無いのか。まぁいい。ノーラ、起きてくれ。ノーラ……」


 アレックスさんが、抱きかかえたままのノーラさんを起こそうとしているので、私は近くで眠っていたエリーさんを起こそうとして……あ、あれ? 起きない?


「フィーネ。その夢魔のスキルって、どうやったら解除出来るんだ? 中位の状態異常回復魔法でも起きなかったんだが」

「あ、朝になったら起きる……はず。……たぶん」

「……仕方が無い。じゃあ、皆を寝室へ運ぼう」

「はい。その後、さっきの続きで、アレックス様のをいただけるんですよねっ!?」

「いや、ダメだって。フィーネ一人では無理だ。明日だな」

「えぇーっ! そんなぁーっ! アレックス様のいじわるぅー」


 眠らせた人たちを全員寝室へ運び終えると、アレックスさんがフィーネを小さな寝室へ連れて行ってくれた。

 結局さっきのは飲ませてくれなかったけど、アレックス様とくっついて眠れたから、まぁいっか。

 えへへー、幸せー!

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