第308話 ウララドの南の街

「ふっふっふ……お父さん! めっちゃ沢山お金を貰ったで! これだけあったら、家も買えるんとちゃうかな!」

「……まぁそうですね。大きな家は分かりませんが、普通の二階建てくらいの家ならキャッシュで買える額です」

「という訳で、これはウチが持ってるんは怖いから、お父さんに任せるなー!」


 商人ギルドでレナが交渉を行った結果、シーナ国で一般的に使われている銀貨ではなく、その百枚分の価値がある金貨……の更に百枚分。要は銀貨一万枚分の価値がある、白金貨というのを三枚手に入れた。

 ちなみに、ジュリが白金貨を初めて見たと言っているし、この三枚で家が買えるというので、相当な価値なのだろう。


「お父さん、どーするー? それだけあったら、次の――南の街へ行って家が買えるんとちゃうかなー?」

「あー、なるほど。次の街の拠点が作れる訳か」


 シーナ国の闇ギルドを完全に潰すという目的があるので、レナの言う通りその手段は大いにアリだ。

 しかも、先程のレナと商人ギルドの交渉を傍で聞いていると、ステータスアップ・ポーションはもっと必要らしい。

 家を買った後も収入が見込めるから、維持も出来るし、シーナ国で物資を揃える事も出来る。

 ただ、問題は移動手段なんだよな。


「アレックスさん。ウララドの街から次の街へ行くという事は、私の家には来てくださらないのですか?」

「ジュリ。非常に申し訳ないけど、アレックスが次の街へ行くというのなら、私はついて行くポン!」

「待ってください! 私だって、アレックス様とご一緒したいですー!」


 うん。既に嫌な予感しかしない。


「待ってくれ。いずれ次の街へ行くだろうが、それは少し後だ。今はまだ別の場所で作業をしている所なんだ。それに、俺たちがシーナ国へ入るには、ジュリとマミの力を借りるしかないから、必ずジュリの家には来るだろう」

「アレックスさん。じゃあ、来た時は必ず愛してくださいね? 出来れば、アレックスちゃんとして」

「アレックス様! 私もお願いします! 今回、本当に気が狂いそうで……アレックス様無しでは生きられないんですぅ」


 とりあえず、ジュリは家も仕事もあるし、ウララドの街を離れられない。

 ケイトは次の街へ行った時には、そこで購入した家――拠点で暮らしてもらい、日々掃除などをしてもらうのは大丈夫そうな気がする。

 マミは、元々ウララドの街へ住んで居る訳ではないし、次の街でもウララドの街でも、自由に移動してくれそうだ。

 本当は早く次の街へ行きたいが……まだ元兎耳族の村と並行して開拓していけるとは思えないからな。

 ソフィやシェイリー頼みにはなるが、もう少し移動時間が短縮されたら、次の街へ行く事にしようか。


「じゃあ、そういう訳で、暫くはジュリの家で世話になる。とはいえ、もう少ししたら次の街へ行くつもりなので、ケイトは余力があれば、次の街の情報を調べておいてもらえると助かる」

「はいっ! アレックス様の為でしたら喜んでっ!」

「よし。じゃあ、ある程度方針が決まったんだが、それはそれとして……流石はツキだな」


 商人ギルドを出た後から、俺たちをつけている男が居たので、人気の無い場所へ誘ったのだが、既にツバキの人形ツキが取り押さえていた。


「さて、俺たちに何の用だ?」

「ま、待ってくれ。商人ギルドの応接室で商談していただろ? だから、一体どんな商品を扱っているのか知りたかっただけなんだ。俺も商人ギルドの一員で、それだけなんだっ!」


 男は首元に、ツキからナイフを押し付けられていて……嘘は言っていなさそうだな。

 闇ギルドに関わったりしている訳ではないのなら、後はジュリに任そうか。


「はぁ……要は商人ギルドのギルドメンバー同士で、後をつけて情報を盗み得ようとした訳ですね?」

「あ、あぁ。これくらい、よくある話だろ? 見逃してくれよ」

「貴方、私が誰か分かって居ないようですので名乗りますが、私は自警団の副団長をしているジュリと言います。これは商人ギルドから聞いている不正行為に該当するため、このまま拘束し、ギルドへ報告します」

「なっ!? ちょ、ちょっと待ってくれよ! 本当に、これくらい皆やっていて、ギルドへ突き出したところで、釈放されて終わりだぜ!? 時間の無駄だって!」

「貴方をどうするかはギルドが決める事であって、私が決める事ではありません。ただ一つだけ忠告しておきますが、この御方は敵に回さない方が良いですよ? そもそも、どうして私がこうして護衛についていて、かつ応接室で商談をしていたか、その理由を考えなさい」


 俺のアイコンタクトで察したジュリが男に話し掛け、再犯を抑止する為の脅しとして、俺を凄い人のように見せかけている。

 やっている事はわかるんだが、何というか落ち着かないというか、何とも変な感じだな。


 ……後で聞いた話だが、男は商人ギルドから追放され、かつウララドの街からも追放になったのだとか。

 まさか俺の後をつけただけで、そんな事にはならないだろうし、きっと余罪があったのだろう。……たぶん。

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