第44話 大所帯になってきたので、寝る場所の改善活動

「さて、ノーラの紹介も済んだ事だし、作業の続きを……って、しまった。ノーラは十五歳だって言っていたけど、何かジョブは授かっているのか?」

「ボク? うん。カーペンターだよ」

「大工か。という事は、木材があれば家を作れるって事なのか?」

「建築スキルがあるから、お手伝いしてくれる人が居れば作れるよ。あとジョブじゃなくて、リス耳族は木を加工する事が得意だから、簡単な家具とかならボク一人でも作れるよー」

「それは凄いな。……皆、ちょっと相談があるんだが」


 ノーラが建築スキルを持っており、家や家具を作れると聞いたので、現在抱えている問題点――この小屋に六人は狭い――を解決しようと提案する事にした。

 というのも、モニカが来て五人になってから……いや、来る前からだが、小屋が狭いが為に、ニナが毎晩俺の胸の上で寝ている。

 それにニナだけでなく、リディアとエリーとモニカの三人も、ローテーションで俺の横で眠っている訳で。

 皆それぞれの作業で疲れているだろうから、普通に就寝出来る様にする為、二段ベッドを作って貰うなり、近くにもう一軒小屋を作ってもらって、別れて眠るようにしよう……そういう話をしたのだが、


「ご主人様。私は常にご主人様の身を案じており、何かあった時に、この身を挺して御守り出来るよう、近くで就寝させていただきたいです」

「そ、そうよ。私も何かあった時に、すぐアレックスと連携出来る方が良いと思うの。だから、別々に寝るなんて危険だわっ!」

「そうですね。私は闇が怖いので、すぐ傍でアレックスさんに守っていただかないと、不安で眠れません」


 モニカ、エリー、リディアと、立て続けに反対されてしまった。

 ……俺、そんなに変な事を言ったのか?


「ニナはどうだ? 俺の胸の上じゃなくて、ちゃんとした所で寝たくないか?」

「んー、最近はお兄さんの上で寝るのに慣れたから、今のままで良いよ」

「だけど、眠り難いんじゃないのか?」

「ううん、大丈夫ー。お兄さんの匂いに包まれて眠っていると、安心するっていうか、落ち着く感じがするし」


 匂いか。

 ……正直言って、臭いって言われなくて良かった。

 もしもニナにそんな事を言われてしまったら、暫く立ち直れなくなるところだ。

 本題とは全く関係ない所で、内心胸を撫で下ろしていると、何かを思い出したようにニナが口を開く。


「あ、そうだ。ニナは、お兄さんの上で寝るのは良いんだけど、強いて言うなら、一つだけ思う所があるかな」

「お、なんだ? 何でも良いから、言ってみてくれ」

「あ、あのね……寝る時は何ともないんだけど、朝になると、ニナのお腹の下からググッて硬い物が上がってきて……その、それが当たる位置によっては目が覚めちゃう事もあって、少し場所を変えて眠り直してるの」

「ニナのお腹の下から、硬い物? 何だ?」


 ニナが何かを思い出しているらしく、顔を紅く染めているのだが、思い当たる事がない。

 だが、俺にはピンと来なかったのだが、


「ご主人様! ちゃんと寝る場所を確保していただきましょう!」

「そうよ! ニナちゃんが毎朝アレックスのアレを……ダメ! 絶対にダメなんだからっ!」

「ノーラさん。お手伝い出来る事があれば何でも言ってくださいね。全力で手伝いますから」


 どういう訳か、反対していた三人が突然意見を変え、協力的になった。

 その一方で、


「ま、待ってよー! ニナはお兄さんと一緒に寝たいんだもん! さっきのはナシ! お願いだから、聞かなかった事にしてよー!」

「だ、ダメよっ! せ、生理現象とはいえ、その……だって、アレがニナちゃんのお腹に……」

「べ、別に痛かったりする訳じゃないもん! ちょっとビックリしちゃうだけだし」

「でも、アレって、凄く硬いじゃない。あんなのがお腹の下にあったら困るでしょ?」


 ニナとエリーがよく分からない話をしている。

 かと思えば、そのエリーをモニカが捕まえ、


「……ほぉ。エリー殿は、アレを触った事があると」

「……む、昔の話よ。アレックスと一緒に寝てた頃、朝目覚めたら毛布が盛り上がっていたから、何かなって思って……って、何を言わせるのよっ!」

「……何って、ナニの話だが。箱入り娘として育てられた私には、もちろんそんな経験は無いが……エリー殿は幼少の頃からそういう事に興味があった変態だったのか」

「……へ、変態じゃないわよっ。逆に当時の私には、そんな知識が無いからこそ思いっきり触っちゃって……って、この話はダメーっ!」


 何やらヒソヒソ話をしているのだが、とりあえずエリーの声が段々大きくなっていって、何かを触った事だけは聞こえた。

 エリーは何を触ったんだ?


「まぁまぁ、乳女さん――もといモニカさん。昔の話なんですから、良いではないですか」

「む……リディア殿は随分と余裕があるな。ニナ殿の件では意見が一致したというのに」

「ニナさんのはダメですが、エリーさんのは昔の――幼い頃の話ですから。一方、私は今の……こほん。いえ、何でもありませんよ?」

「な……なんだってー! リディア殿、今のはどういう意味だっ!? リディア殿ーっ!」


 んー、リディアまで参加して、向こうの三人はよく分からない事になってきたな。


「ねー、お兄さん。ニナ、今まで通り、お兄さんと一緒に寝たいよー」

「俺は別に構わないが、いずれにしても、六人で寝るには狭い気がするから、何かしらの対応が必要だと思うんだ。ノーラ、どうかな?」

「木材さえあれば、二段ベッドは作れるよ。ただ、毛布とかマットとかは作れないけど」


 とりあえず、木は沢山あるし、毛布はモニカが来た時に追加で多めに送ってもらっている。

 マットは仕方が無いが、狭い小屋ではあるが、二段ベッドにすれば多少寝る環境は改善されるのではないだろうか。


「じゃあ、ノーラ。悪いが二段ベッド作りを頼む。手伝えそうなのは……ニナは手先が器用だから参加してもらうとして、力が要りそうだから、俺も入るか」

「ご主人様っ! 私も手伝いますっ! ご存じの通り、剣を振るっておりますので、腕力はあります!」


 ノーラとニナと話していたのに、突然モニカが入ってきて、


「わ、私も手伝います! 疲れたらお水とかも要りますよね?」

「私もっ! えっと、木を切るのに、攻撃魔法は便利よっ!」


 リディアとエリーも遅れてやって来る。

 とりあえず、エリーの攻撃魔法で木を切るという案はどうなのだろうか。

 木っ端微塵にならないか?


「お、お兄ちゃん。沢山来られても……ボク、困っちゃうよー」

「すまん。手伝ってくれる気持ちはありがたいんだが、ノーラが怖がっているから、モニカとエリーはいつも通りの活動を頼む。リディアは一人だと魔力枯渇が起きてしまうから……食事の準備を頼む」


 未だに俺の背中にしがみ付いているノーラの意見を優先し、慣れるまでだからとモニカとエリーを宥め、それぞれの活動を行う事にした。

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