第401話 尋問準備

「起きなさい」


 カスミの分身が連れて来た男を起こすと、短剣を突きつけて何者かを尋ねたのだが、


「ロザリーぃぃぃっ!」


 突然ロザリーの名前を叫びだした。

 あー……雰囲気が違うから分からなかったが、こいつはウラヤンカダの村に居たあの冒険者か。


「殺したければ、殺せっ! ≪リバース・チャーム≫!」


 聞いた事のない魔法を使われ、一瞬ロザリーがピクンと震えたが……カスミの時と同じくアレを飲んでいるからか、何事も無かった。

 自身の魔法が効かなかったからか、呆然としているが……それより問題はカスミだな。

 口には出していないが、無視された事でかなり怒っている。

 こ、こういう時は……分身を本気モードに!


「~~~~っ!? お、お兄さんっ!? い、今っ!?」

「すまない。この男を許せとは言わないが、命は取らないでやってくれ」

「わ、わかったわ。だけど、分身で二倍の状態でのこれは……~~~~っ!」


 とりあえず、カスミが殺したりはしないと言ってくれたので、本気モードを解除したのだが、暫くはカスミが動かず……少ししてゆっくりと起き上がる。

 そして、


「死になさい」


 そう言って、カスミが男に何かを飲ませた後、一瞬で男をロープで縛りあげた。

 男が気を失ったのと、カスミをおかしくしていたのが能動的に発動させるタイプのスキルだという事がわかったので、分身を解除する。


「えぇっ!? ご、ご主人様……私、もっと欲しいですぅ」

「……もっとして欲しい」


 エミリアとロザリーがすぐに抱きつこうとしてきたが、ナズナに遮られ、一旦待機させられる事に。

 ……というか、元仲間が倒れて居るんだが……魅了状態だからか、眼中にないようだ。


「マスター、私ももっと欲しいです」

「ソフィは普段から……こほん。悪いが少しだけ待っていてくれ。で、カスミはこの男に何を飲ませたんだ?」

「ふふっ、知りたい? 媚薬よ。超強力で、お兄さんのを咥えて悦ぶロザリーちゃんを見ているだけでも何度も出ちゃうくらいの。それも、出し過ぎて死んでしまう程のね」


 命までは取らないでやってくれと……いや、俺がそう言ったから、こんな回りくどい事をしているのか。


「だが、このままロザリーが俺の所へ来たら、こいつは死んでしまうのでは?」

「もちろん、私たちを襲った理由や背後関係を白状したら解放してあげるわよ。まぁ解毒薬はあげないけど、エッチな気分にならなければ助かるかもしれないわね」

「……それなんだが、俺の予想ではただロザリーの事が好きなだけだと思うのだが」

「えぇー、それだけでカスミちゃんたちにケンカを売るかなー?」

「いや、男は単純だからな……カスミ。少しの間、俺がこの場を離れるから、ロザリーとエミリアに、この男の所へ――元の冒険者に戻るか聞いてくれないか?」


 エミリアとロザリーが俺の所へ来ているのは、例のポーションを飲んで魅了状態だからだと思う。

 俺が居ない場所で、魅了効果が発動していない冷静な状態で冒険者へ戻る事を望むのであれば、その方が良いと思うのだが、


「え、嫌ですけど」

「……絶対イヤ。私はアレックス様の傍に居る」

「お兄さん。そもそも、二人にここへ来るように声を掛けた時は、お兄さんが居ない時だよ? カスミちゃんも含めて、魅了状態とか関係無しに、もうお兄さん無しでの人生なんて、皆考えられないからね?」


 な……そ、そんな事を考えていたのか。

 エミリアもロザリーも責任をしっかり取ろう。


「……と、それはそれとして、じゃあ、もうこの男は解放しても良いんじゃないのか?」

「お兄さん。それは甘過ぎるわよ。とりあえず、前に見た時はこの男は剣士だったじゃない? それなのに、今回は変な魔法を使って来たでしょ? どうして短期間でそんな魔法が使えるようになったか確認しておかなきゃ」


 なるほど。確かにそれは一理あるな。


「お母さん。実はその男が隠していた奥の手かもしれないよ?」

「ナズナちゃん。こいつは全くの脈無しで、叶う事のない片想いのロザリーちゃんを追って、ストーカーのようにやって来た男よ? そんな奥の手があったら、あの村長の村で使っているわよ」


 いやあの、カスミ。その通りだとは思うが、言い方というか……もう少し手心を加えてあげような。

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