第519話 矛と盾のアレックス

「ごちそうさまー! パパー! おいしかったねー!」

「ごちそう様でした。ご主人様の……とっても美味しかったです」


 ユーリが元気良く食事を終えたところで、テーブルの下から結衣が出てきた。

 何というか……すまない。

 ただ、結衣が頑張ってくれたおかげで、ユーリやニースも変な行為を目にしなくて済んだ。

 そして、


「アレックス様ーっ! わ、私たちの子供ですーっ!」


 チェルシーが、俺と同じ姿となったアレクシーを連れて来た。

 見た目は分身と全く同じだが……雰囲気が違う。

 これがジョブの違いだろうか。

 とはいえ分身の一種なので、感覚を共有しているし、自動モードにしなければ、俺が思った通りに動かせるのだが……ちょっとどんな感じか動かしてみたいな。


「そうだ! 自動モードで俺と手合せすれば良いのか。皆、少しだけ時間をくれないか?」


 皆に向かって聞いてみたが、特に反対する者が居なかったので、アレクシーを連れて家の外へ。

 アマゾネスの村の広場へ行くと、素手で構える。


「あ、あの……アレックス様! 私のアレクシーに一体何をされるのですか!?」

「いや、チェルシーの力をもらい、ランサーになった俺というのが、どんなものなのか知りたくてさ。もちろん、どっちも俺だし、本気で攻撃なんてしないから心配しないでくれ」

「で、ですが……アレックス様同士で戦いになられるという事ですよね? だ、大丈夫なのでしょうか?」

「戦うといっても、寸止めだから大丈夫だよ。それより、チェルシーを含め、皆少し離れてくれ」


 不安そうなチェルシーを宥めると、分身の自動行動スキルで、目の前に居る俺と戦うように指示する。

 もちろん、俺がダメージを受けてもアレクシーがダメージを受け、チェルシーが悲しむ事になるので、寸止めするように……と、指示を追加しておいた。


「さぁ、いつでも良いぞ」


 そう言うと、アレクシーが俺の分身とは思えない速さで駆けだし……


「はぅんっ! い、いきなり奥まで!? 私に来るとは思っていなかったから、心も身体も準備不足で……んぁぁぁっ!」


 チェルシーに襲い掛かった。

 何故だ!? 自動行動スキルでは、俺に攻撃するように指示したのに!

 って、マズい! 感覚を共有しているから、そろそろアレが出てしまうっ! ……って、あれ?


「ぁぁぁ……えっ!? ど、どうして? どうして、このタイミングで止めちゃうの!? あと少しだったのに、こんな寸止めなんて、酷いですぅ」


 チェルシーが涙目で訴えかけると、再びアレクシーが動き出し……少ししてまた止める。


「……って、そういう事かっ! 後で指示した寸止めだけが有効になっているのかっ!」

「アレックス様ぁぁぁっ! こんなの酷いですっ! 後少し……あと少しなのにーっ!」

「おふぅっ! ご主人様っ! な、なるほど。焦らしプレイですね? こ、これはキツい……ですが、私は負けませんっ!」


 気が付けば、他の分身たちにも寸止めの指示が伝わってしまっており、モニカだけでなく、女性陣の殆どが辛そうにしている。


「アレックス! これは酷い! こんな事は今すぐ止めて、ちゃんと満足させなさいっ!」


 遂に天后が叫びだし、強制的に寸止めが解除されたようだ。

 分身たち全員が一斉に本気で動き出し……って、天后!? やり過ぎだっ! 流石にこれは……天后ぉぉぉっ!

 分身たちへの指示権が天后に奪われたまま、全力で動き出す。


「アレックスはレヴィアたんと! リディアやサマンサみたいに、子供作る」


 アレクシーと戦うはずだったのに、いつの間にかレヴィアが俺に抱きついていて……もうダメだっ!

 ……寸止めのせいだろうか。

 女性陣が皆、凄い勢いで攻めてきて、結局かなりの時間を費やしてしまった。

 プルムも、七体目――プルム・セブンが誕生しているし、アレクシーは……あ、そのまま俺と同い年なのか。

 分裂スキルの新規発動条件がよく分からないままだと思って居ると、


「ふっふっふ。ご主人様のお子様は、私が育てます!」

「なっ!? も、モニカ!?」

「マジックナイトのご主人様……素晴らしいではありませんか」


 モニカが、十二歳くらいの俺を抱きかかえていた。

 い、今ならまだ間に合うだろうか。

 俺を……俺の分身を真っ当な道へ戻してくれぇぇぇっ!

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