第520話 玄武探し再開

 一体、いつの間に分裂スキルが発動していたのだろうか。

 だがそれよりも先に、分身を解除する。


「あぁっ! 私のアレニカが!」

「待つのじゃ! 先程の少年アレックスは、まだ十二歳程度……今から我の愛を注げば、結界師に育つ可能性があるのじゃ! モニカが命名するのは、まだ早いのじゃ!」

「ふっふっふ。育児において最も重要なのは幼少期! その幼少期を私の聖水で育ったのだから、先程のご主人様は私の子供と言っても差し支えないのだっ!」


 モニカとミオが対峙するが……とりあえず、玄武を助けに行こう。

 昼食を終えるまで……と言いながら、結構な時間を使ってしまったからな。

 改めてパーティを分け、ようやく出発となったのだが、ノーラの故郷を目指すフェリーチェ、モニカ、ミオたちから、プルム・フォーを同行させて欲しいという強い要望が。


「そちらは、アレックス様が居られる訳ですし、一人くらい良いじゃないですかっ!」

「そうです! ご主人様が居ないなんて……というか、本来ならば母としてアレニカを育てる為に、私はそちらへ加わるべきなんですっ!」

「モニカと少年アレックスはさておき、我らの夜の為に頼むのじゃ」


 三人とも強く懇願してきて、どうしたものかとプルムに目をやると、


「良いんじゃないかなー? ねー、お兄さん」

「プルムの分裂した姿だからな。プルムが良いなら、俺は構わないが」


 プルムが快諾し、やっと出発する事に。

 結局、ランサーのアレクシーがどれ程のものか知る事は出来なかったが、これ以上ここにいると、そのまま夜になりそうだからな。

 ただ、やはり気になるのは、分裂スキルの発動条件と、モニカのように聖水を作り出せる者の場合はどうなるのか、それからアレクシーの場合はチェルシーが一人で愛を注いだが、途中で女性が変わった場合はどうなるのか……といったところか。

 とはいえ、今度こそ玄武を……という事で、俺とレヴィア、ラヴィニアとプルムに、ニースが乗った船を、天后の力により元の場所――大きな河の上流へ転移してもらった。


「アレックス! レヴィアたん、頑張る!」

「あぁ、頼むよ」

「任せて。それで、どっちへ向かうの?」

「そうだな。水辺を中心に調べて行きたいのだが、この河はまだ上れそうなのか?」

「んー、もう少しだけなら。流石に浅くなってきているから、そんなには行けないかも」

「わかった。とりあえず、レヴィアが行けるところまで行ってみよう」


 現時点でヒントらしいヒントが、水辺という情報しかない。

 だが、風の力を司る魔族が、玄武を弱化させる為にこの大陸を高く持ち上げたのだから、先日の村のように河や海岸に洞窟のような物があるのではないかと思っている。

 その洞窟さえ見つければ、その奥に玄武が居るはずだっ!

 俺の考えを皆に伝え、海竜の姿になったレヴィアが河を登ってくれている間、プルムやニースと共にひたすら洞窟を探す。


「お兄さーん! アレ……あ、ごめんなさーい! ただの窪みだったー!」

「パパー! あそこは……んー、違うかもー」


 河の上流まで来ているからか、それらしい物は見当たらないなと思って居ると……ラヴィニアが水中から出てきた。


「あなた。そろそろレヴィアさんが限界よ。河は小さくはないのだけれど、レヴィアさんの大きさでは無理があるみたい」

「そうか。レヴィア、ありがとう! 一旦、上がってくれ」


 気付けば、かなり速度が遅くなっていた船からレヴィアに声を掛け、人の姿に戻ったレヴィアが水から上がる。


「レヴィアたん、頑張った。けど、これ以上は身体が川底にぶつかって無理」

「そうだな、ありがとう。だが、上流に来たからか、かなり流れが緩やかだな」

「この河は、T字路になっているみたい。左側が更に上流なんだけど、あっちはもう無理。で、このまま真っすぐ進むと、また河を下る事になって、この大陸の西側に行けると思う……たぶん」

「なるほど。水源って事は、だいたい山とかだよな? 村の人たちから聞いた話から考えてみても、これ以上上流に行く意味は無さそうだから、真っすぐ進んでみるか」

「了解。だけど、レヴィアたんが引っ張る事は出来ないから、暫くはオールとかで漕がないと、進まないかも」


 オールか。そういえば、元々レヴィアに引いてもらうつもりでこの船が作られているから、オールは積んでいないな。


「あなた。ゆっくりでも良いのであれば、私が引きましょうか? 海は波があるし、この河の下流は流れがキツかったけど、ここまで穏やかなら、私でも引けるわ」

「大丈夫なのか?」

「えぇ、任せて」


 そう言って、レヴィアに代わってラヴィニアが船を引いてくれる事に。

 なだらかな水面をゆっくりと船が進むのだが……木々が並ぶ岸から視線を感じる気がするのは、俺だけなのだろうか。

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