第521話 岸の上の視線

 緩やかな河を、ラヴィニアが引く船が進んで行く。

 依然として、皆で洞窟がないか見ているのだが、やはり気になるのは謎の視線だ。

 ここが船の上で、両岸が高い崖でなければ即見に行ったのだが。


「……レヴィア。あちら側の岸から、何か視線を感じないか?」

「んー、感じると言われれば感じる。……気になるの?」

「あぁ、少しな。敵意や悪意は感じないのだが……」


 この視線は、嫉妬? だろうか。

 どうやら俺たちの事を羨ましく思っている者が、身を隠しながら、こちらを見ているようだ。

 まぁ考えてみれば、綺麗なプルムとラヴィニアが居て、幼いがレヴィアとニースは可愛いからな。

 いや、レヴィアはまだ分かるとして、ニースに変な感情を抱く奴は、かなりヤバいし、成敗しておくべきだが。


「レヴィア。ちょっと、あの崖へ行ってこようかと思うのだが……」

「ダメ」

「え? 何故だ?」

「アレックスが向こうへ行ったら、その後どうなるか分かるから」


 俺が視線を送っている者の所へ行ったら……戦う事になって、友好的な関係は気付けなくなってしまうか。

 それに、レヴィアが攻撃を受ける事はないだろうが、ラヴィニアやニースが攻撃されても俺がダメージを肩代わりする事は出来るが、この船を狙われたらマズいか。

 船のダメージは肩代わり出来ないからな。

 だが、この船の進行が遅いという事もあるが、ずっとつけられている。

 気配からして……数人居るな。


「うーん。今の所、攻撃してくる気配はないが……」

「ん? お兄さんもレヴィアちゃんも、どうしたのー?」

「あぁ、向こうの岸から見られているから、どうしようかと思ってな」

「なるほどー。んー、プルムが何とかしようかー?」

「えっ!? 出来るのか!?」

「うん。ちょっと待っててー!」


 そう言って、プルムがスライムの姿に変わる。

 何をするのかと思っていると、そこから更に、平べったい大きなクッションのような形に変わった。


「……プルム? これは?」

「あのね。大きく息を吸い込んで、空気をたーっぷり含んだの。この状態で、プルムの上にお兄さんが飛び乗るでしょ? そうすると、ぼよよーんって、大きくジャンプして、あの岸くらいの高さなら、跳べると思うのー!」

「それは、プルムは大丈夫なのか?」

「んー、重い物を外してくれれば大丈夫だよー!」


 重い物……と言っても、北の大陸へ来るのが船だったので、水に落ちた事を考え、鎧や大盾は置いて来ている。

 剣と小盾に革鎧なので、これ以上荷物を減らすのは無理か。


「すまない。このままでも良いか?」

「まぁ大丈夫だと思うよー!」

「待って。アレックス、本当に行くの?」


 プルムのジャンプ台? で、視線を感じる岸へ飛び移ろうと思ったのだが、レヴィアから待ったが掛かる。


「相手が誰かはわからないが、敵対する気がない事を伝えようと思うのと、万が一敵対するような相手であれば、この位置では戦えないからな」

「……わかった。とりあえず、ラヴィニアを一旦船に上げる。あと、分身を一体こちらへ来させて欲しい」

「分身を? まぁ下が河だし、飛び降りれそうだが……」


 分身スキルは自動行動がメインとなるので、戦闘ではまだ使えない。

 それにレヴィアが居れば、仮に船が攻撃されたとしても、返り討ちに出来そうだが……まぁ希望という事で聞いておこう。


「分身を使うような事になれば、こちらへ分身を送るよ」

「わかった。それなら、大丈夫。行ってらっしゃい」


 何だろうか。レヴィアが急に納得し、ラヴィニアを止める。

 いや、とりあえず視線を送っている者たちと話し合うか。


「じゃあ、プルム。頼む」

「うん……出来れば、一回で成功させてね。いいよー」


 プルムの上に飛び乗ると、ぐぐっとプルムの身体が沈み込み……ある程度沈んだところで、ぐぐぐっと押し返される。

 この押し返される力にタイミングを合わせ……跳ぶっ!

 岸に向かって高く跳んだのだが、やや角度が甘く、ギリギリ届かな……指先が引っかかった!

 そこから、気合で……上がるっ!


「わぁっ! す、凄い……あの状態で、上がって来られるんだ」


 何とか岸へ上がる事に成功すると……十五歳くらいの少女が三人居た。

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