挿話37 主が見つけられず、焦るシノビのサクラ

「ど、どういう事でござるっ!? 拙者の足でメイリン様の元へ辿り着けないなんてっ!」


 メイリン様がお姿を消して早四日。

 シノビのスキルにより、メイリン様がどちらに居るのかという方角だけは分かるので、半日もあれば追いつけると思っていた。

 幼い頃よりメイリン様を影から守る存在として厳しい修行を積んできたので、馬車くらいなら走って追いつく事が出来る。

 メイリン様は幽閉生活が長く、早く走ったりは出来ない為、連れて逃げるのであれば馬車や馬だと思う。


「……まさか長距離召喚魔法!? いや、あれには魔法陣などの下準備が必要なはず。床の下に魔法陣を仕込んであれば可能だが、あの塔にそのような物を仕込めるとは思えない」


 近距離の召喚魔法の類なら、魔法陣などが無くても使用可能なので、その手のスキルでメイリン様が助け出されたと思っていたのだが、もっと他の可能性も考えなければ。

 最悪の事を考えると、助け出されたのではなく、メイリン様のスキルを狙った別の勢力によって攫われたという可能性さえある。

 一先ず、滅私奉公スキルで方角が示される以上、メイリン様が生きている事は間違いないのだが、それにしても時間を掛け過ぎだ。

 早くメイリン様の元へ行かなければ……と、焦りを覚えながらも走り続けて居ると、前方に大きな街が見えてきた。

 あの街の中にメイリン様が居るのだろうか。


「失礼。ここは、何という街なのだろうか」

「ん? ここはナーダラーっていう港町だ。シャークの卵で有名だから、是非食べていってくれ」


 ナーダラーといえば、確かこの大陸の東端……北に行っても、南に行っても、これより東へ行くには船に乗って海を渡るしかない。

 どうかこの街にメイリン様が居ますようにと、祈りながらスキルに導かれるままに進んで行くと、


「な、なんて事……メイリン様はこの大陸を出られたのか」


 砂浜まで来たのに、スキルが未だに東を示す。

 船に乗って海の上か、何らかのスキルで別の大陸に居るのか。

 いずれにせよ、メイリン様の元へ行くのが、かなり困難になってしまった。

 だが、望みは高くないものの、手段が無い訳ではない。


 転送屋――かなり高額な上に、一定条件を満たす必要があるが、転送装置を使って特定の街や、特定の人の場所へ届けてくれる。

 それなりに大きな街だし、きっとあるはずだ。

 街の人たちに聞き込み……見つけた!

 どこに居るかは分からないが、特定の人物が居る場所へ転送するという条件――親兄弟であり血が繋がっているか、もしくは本人の身体の一部を所有し、一片の敵意すら持ち合わせて居ない事――は満たしており、費用も……ギリギリ足りる。

 残る問題は、メイリン様が何処に居るかも、誰と居るかも分からない為、転送先がどういう状況か分からないという事だ。


 転送先で考えられる一つ目のパターンとしては、メイリン様が別の誰かにより救助された場合。

 この場合は、メイリン様を支える同胞として、拙者も受け入れてもらえるだろう。


 二つ目のパターンは、メイリン様の力を狙う別の組織に拐われていた場合。

 この場合は、拙者も檻の中に転送されてしまい、場合によってはメイリン様の元へ行っても何も出来なくなる。


 そして最後に、三つ目のパターンとして、飛行魔法などでメイリン様が移動している場合。

 これは最悪、転送された拙者がメイリン様に気付いて貰えず、そのまま海へ落下し、置いていかれる事もあり得る。


「すまない。一通手紙を出したい。それが終わり次第、転送を頼む」


 最悪の場合を考え、メイリン様が大陸を出ている事と、拙者が転送装置にて向かう事をしたため、妹に手紙を出す。

 これで拙者に万が一の事があったとしても、妹が何とかするだろう。

 再び転送屋の所へ戻ると、


「待たせた。こちらの準備は整った故、転送を頼む」

「分かりました。この髪の毛の持ち主の元へ転送すれば良いのですね?」

「うむ。頼む」


 お仕えする身として、肌身離さず持っていたメイリン様の毛髪を転送屋に渡し、その毛髪に残る魔力の断片から、現在の位置を調査してもらうと、


「転送装置が位置を特定しました。ただし、ご存じかと思いますが、固定された特定の場所への転送――転送先に魔法陣などが仕込まれている場合とは異なりますので、稀に見当違いの場所へ転送される事もありますが、ご容赦くださいませ」


 無事に転送準備が整ったという返事があった。

 転送事故については……この転送装置を信じるしかないので、考えないようにしよう。


「ちなみに、転送先がどこかは……分からないか。いや、すまない。一応聞いてみただけだ」


 転送先は転送装置が勝手に導き出すので、装置の操作を行うだけの転送屋には分からないか。

 一先ず、メイリン様の状況が分からない為、どんな状態であっても臨機応変に対応出来るようにと、気持ちを落ち着かせ、


「こちらの準備は整った。転送を頼む」

「では、そちらの魔法陣の中へ入ってください。それでは、良い旅を」


 魔法陣の中へ。

 一瞬で視界が変わり、薄暗い畳の部屋が視界に映ると、


「ご、ご主人様っ! もっと……もっとお願いしますぅ」


 無駄に乳の大きい女が、男の上に座って、その大きな胸を上下に激しく揺らしていた。

 ……せ、拙者は一体、どこへ転送されてしまったのだ!?

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