第737話 足りない聖水

「ご、ご主人様っ! た、大変です! もう……もう出ません」

「ふむ。ではそこのバケツの水を飲んでもらおうか」

「い、いやあの、シェイリー殿。もう既にバケツ二杯分の水を飲んでいるのだが」


 シェイリーの魔法陣を作る為に、モニカが聖水を作らされているのだが、流石に可哀想になってきたな。

 とはいえ、モニカに協力してもらわないと戻れない訳で、どうしたものかと考えていると、


「だ、旦那様。お待たせしました」


 ユーディットが大きなバケツを二つ持って戻ってきた。

 そのバケツには、モニカが出した聖水と同じくらいの量の聖水が並々と入っている。


「おぉ! 凄いぞ! それだけあれば、余裕で魔法陣を完成させられる! 乳女は、もういいぞ」

「……んぐっ! えぇっ!? 今、バケツの半分飲んだ……あ、いや。飲みたい訳ではないんだ。で、では解放という事で……」


 ユーディットから聖水を受け取ったシェイリーが、再び魔法陣を作成し始め、モニカは横になってグッタリしてしまった。

 モニカは後で労うとして、先にユーディットだな。


「ユーディット。無理をさせてしまって、すまない」

「本当だよー! いきなり聖水を作って欲しいだなんて……幾ら旦那様にでも、アレを作っている所は見せられないよー!」

「そ、そうだよな。しかし、凄い量だったな」

「あ、実はね。天使の村へ行ってたんだー! 旦那様が困っているって話したら、ママが皆に頼んでくれてね。物凄い量が出来ちゃった」


 ユーディットの母……ヨハンナさんか。

 天使族の者たちに、有無を言わさず聖水を提供させていそうだな。

 天使族の面々にも、落ち着いたら礼を言いにいかないと。


「そうそう。それでねー、ママがまた遊びに来たいってー!」

「なるほど。今は立て込んでいるから、ひとまず白虎を救出した後だろうか」

「そうだねー。ママはユーリにも会いたいって言っていたし、ユーリが戻ってきている時に来てもらおー!」


 それから、ユーディットと話している内にシェイリーの準備が出来たそうで、例の如く魔法陣を作成する場所でフレイムタンのスキルを使うようにと言われた。


「では、俺は一旦モニカの転移スキルで魔法陣を作成する村へ行って来るよ」

「わかった。残すは最後の仕上げのみだ。暫し待つとしよう」


 シェイリーが魔法陣の前で待ってくれているので、早く移動しようとモニカに声をかける。


「モニカ……大丈夫か?」

「ご、ご主人様……あっ! あっ、あっ、あっ……も、申し訳ありません!」

「……い、いや。仕方がない。俺は大丈夫だ。それよりモニカは……」

「あ、私はご主人様がお嫌でなければ、全く問題ございません。むしろ聖水プレイがお気に召したのであれば、お漏らしの一度や二度……」

「気に入った訳では無い」


 全裸で横になっていたモニカに声を掛けた途端に、聖水を掛けられるというまさかの……いや、忘れよう。

 それより転移だな。


「ご主人様。すみません。今は立てそうにありませんので、このままどうぞ」

「えっと、そのモニカの水まみれの……」

「大丈夫です! これは聖水です! 何の問題もございません!」


 そう言って、モニカが足を開き、抱っこをせがむユーリのように両腕を伸ばしてくる。

 いや、何というかちょっと抵抗があるが……致し方ない。

 寝転ぶモニカに身体を重ねると、


「ひぅっ! ふ、普段はご褒美なのに、アレックス様のと水でお腹が圧迫されて……いや、これはそういうプレイと思えば、アリだ!」

「モニカ。それよりも転移を頼む」

「もう、ですか!? 少し楽しませていただいても……あ、はい。わかったのでリディア殿は無言で怒らないでもらいたいのだが……≪転移≫」


 苦しそうにしながらも、モニカが転移スキルを使用してくれて、一瞬で景色が変わる。

 さて、次はサマンサと魔法陣の位置を決めなければ……と思っていると、突然水の中に落ちた!

 一体何が起こったんだ!? と思っていると、


「えっ!? あなた!? あなたーっ!」


 聞き覚えのある声が……ラヴィニア!?

 モニカの転移スキルでアマゾネスの村へ移動したはずが、どういう訳か水中に居て、ラヴィニアに抱きつかれた。

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