第719話 迫られるアレックス

 ツェツィとディアナを抱っこし、ユーリをおんぶして歩き、シアーシャが限界を迎えたのでディアナと交代してもらって……やっと、街を見つけた。

 様々な獣人が暮らす大きな街のようなので、何かしらの乗り物を調達したいと思う。

 そうしないと、いつまで経っても魔族領に着かないからな。

 だが、その前に宿と食事だ。

 既に陽が沈んでしまっているので、泊まれればどこでも良いのだが……


「すみません。その大人数は、部屋が空いておりません。三人部屋が二つなら空いているのですが」


 最初に見つけた宿で、受付をしている犬耳の女性から、物凄く申し訳なさそうに謝られてしまった。

 気付けば、俺を含めて十一人と大所帯になっていたので、この時間から全員で同じ宿に泊まるのは難しそうだ。


「仕方がない。宿を分散しよう。ただ、西の大陸では人間が珍しがられて、以前のように狙われるかもしれない。分け方を考えよう」


 まぁ前はグレイスが自らさらわれた……というのもあるが、人間が狙われるのも事実だからな。


「アレックス。その、以前に……っていうのは分からないけど、今のウチらに手を出そうとする奴なんて居ないと思うんよ」

「ん? そうなのか?」

「だって、ウチとナターリエが居るからねー。ドラゴンの魔力を感じ取って、近寄って来ないと思うんよ」


 そういえば、もう夜で人通りが少ないとはいえ、通行人から避けられている気がする。

 今も、酔っぱらいの獣人の男性がフラフラしながら向かって来たが、ある程度近付いたところで、急にビクッと身体を震わせ、直角に曲がって行った。

 俺はドラゴンの魔力というのがイマイチ分からないが、要はヴァレーリエとナターリエが一緒に居れば襲われる事はないという事か。


「では、俺、ヴァレーリエ、ナターリエの三つに分けようか」

「……あぁっ! しまったんよ! さっきの無し! 無しなんよっ!」

「いや、そう言われても……とりあえず、俺が割り振りを決めるぞ?」


 ひとまず、もう限界っぽいシアーシャをまず休ませ、シアーシャとペアを組んでもらいたいザシャもヴァレーリエ組に。

 あと、目が合ったモニカとグレイス。最後に、結界を張れるミオの六人に、この宿へ泊まってもらう事にした。


「くっ……ご主人様と一緒に居たいアピールをした事が裏目にっ!」

「むぅ……仕方がないのう。ただアレックスよ。分身は最低でも六体送るのじゃぞ? でないと、明日は梃子でも動かぬのじゃ」

「え……わ、わかったよ」


 ミオの言葉に、ヴァレーリエ組全員が頷いたので、こちらの宿が決まり次第、分身を送ると約束し、別行動に。

 次の宿を目指して歩いていると、


「お父さん……眠いよう」

「しまった。ツェツィを先に休ませるべきだったか」


 抱っこしているツェツィがウトウトし始める。

 なので、次の宿でツェツィとナターリエは確実に泊まってもらおうと考えていると、


「五名様ですね? 大部屋で宜しければ、一部屋空いておりますが」


 三組に分かれる事なく、残り全員が泊まれる事になった。

 残っているのは、ツェツィ、ナターリエ、ディアナ、ユーリか。

 ……これは、分け方を失敗したか? いやでも、ツェツィやディアナを向こうの分身組に混ぜる訳にはいかないか。

 五人で三階にある大部屋へ移動し、まずはツェツィをベッドに。

 ナターリエがトントンと優しく胸を叩いて寝かしつけていると、いつの間にか全裸になったディアナが抱きついてくる。


「にーに! 今日、雪の中でやったみたいに、ウチを温めてー!」

「……ここは寒くないぞ?」

「ううん。違うのー! アレ、すっごく気持ち良かったのー!」


 どうしよう。あくまであれは非常事態で仕方なく……なんだが、どうやったらディアナが諦めてくれるだろうか。


「あらあら、あなた。私の事も忘れないでくださいね?」

「にーにー! 早く、早くー!」

「あ、パパー。ユーリはツェツィのおとなりで、さきにねるねー! おやすみー!」


 ユーリが何かを察したように部屋の隅のベッドへ。

 いやあの、ナターリエはともかく、ディアナは……マズいと思うんだが。


「ご主人様。結衣の出番でしょうか? 失礼致します」

「あらー。影の中から女の子が……私もツェツィの妹を作るわねー!」

「にーに! 裸だと風邪を引いちゃうから、早くー!」


 とりあえずディアナは服を着れば良いんじゃないのか?

 そう思っていると窓がコンコンとノックされ、目が笑っていない笑顔を浮かべたザシャが、窓の外から俺を見ていた。

 あ、うん。分身を出せって事だな。

 どうしてこうなるんだぁぁぁっ!

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