第16章 日の当たらない場所でもスローライフ

第718話 第二魔族領を目指して

 色々あって、ナターリエ母娘が俺たちと同行する事になり、第二魔族領を探して南へ歩いて行く。

 しかし、ひたすら歩いてばかりだからか、ツェツィが辛そうなので、抱っこしてあげる事に。


「わーい! お父さん大好きー!」

「パパー! ユーリもおんぶー!」

「にーに。ウチも抱っこー!」


 抱き上げたツェツィが嬉しそうに俺の首に手を回すと、ユーリが俺の背中にしがみ付いてきて、ディアナがツェツィのように抱っこして欲しいと、両手を大きく広げる。

 とりあえず、ディアナはこれまで普通に歩いて……というか、それどころか走っていたのに、どうして急に抱っこを求めるんだ?

 もしかしてツェツィを見て、自分もしてもらいたくなったとか、そういう事なのか?


「えへへー。お父さんに抱っこしてもらえるの、嬉しい!」

「にーに、にーにー!」


 ツェツィは父親が亡くなっているからか、素直に喜んでいて、ディアナも家族と離れ離れだから、ツェツィを見て尚更という感じか。

 咄嗟に武器が持てなくなるのは困るが、ひとまずツェツィを左腕に。ディアナを右腕で抱きかかえ、背中にユーリをおぶさって歩く。

 ……三人とも小柄で、軽いからまぁ大丈夫だろう。


「あらあら、ツェツィったら。お父さんの事が大好きなのねー? お母さん、嫉妬しちゃうわー! ねぇ、あなた。私も抱っこ……というか、抱いてくれても良いんですよ?」


 嫉妬しちゃう……って、そっちなのか!?

 娘のツェツィが母親のナターリエではなく、俺のところに来るから、俺に嫉妬しているのかと思ったら、ツェツィに嫉妬……って、どういう事だよ。


「いや、ナターリエ。何を言っているんだ?」

「うふふ。さっきトイレへ行った時に、私の魔力の干渉を止めて、何となく本来のあなたの姿に戻ってみたの。そしたら、アレが凄くって……ねぇ、あなた。ツェツィに妹を作ってあげない?」

「そう! そうなんよ! レッドドラゴンも、アイツのせいで大変な事になっているんよ! アレックス、早く子供を作るんよ! そして、レッドドラゴンを大繁殖させるんよ!」


 ナターリエ……流石にそれは説教ものではないだろうか。

 あと、ヴァレーリエも便乗しないでくれ。その、激減してしまったレッドドラゴンの数を増やしたいという気持ちは分からなくもないけどさ。


「ふっふっふ、アレックスよ。モテる男は辛いのぉ。という訳で、どこかで休める場所があれば、休憩にするのじゃ。そろそろ陽が沈むのじゃ。我も結界を張ったり、いろいろしたのじゃ。たっぷり労ってもらいたいのじゃ」

「私も沢山調べましたの。それに、私は身体が弱いので、アレックスさんのお薬をいただかないと、倒れてしまいますの」

「私も、浮遊魔法を何度も使ったからね。アレックスので魔力を回復させてもらわないとねー」


 ヴァレーリエの言葉に、ミオ、シアーシャ、ザシャが反応して近寄って来た。

 いや、普通に休憩は取る……というか、次に見つけた街か村で宿に泊まるつもりだから、ツェツィやユーリの前で変な事を言わないでくれ。

 これ以上、変な事を言われる前に先を急ごうと思っていると、


「あ、そうだ! お母さん。魔力で思い出したけど、お父さんって凄いんだよー! どうやったのかは分からないんだけど、苦しんでいるツェツィに、濃厚な魔力をたっくさん飲ませてくれたのー! しかも、とーっても良い香りで、美味しかったんだー!」


 その変な事を聞かせたくないツェツィから、困った話が出てきた。

 ツェツィが呪いで苦しんでいる時に、助ける為にアレで魔力を回復させた訳であって、当然ながら変な意味は無いんだっ!


「……あなた。ツェツィは人間換算で、まだ十……」

「待ってくれ。ナターリエ。これには色々と理由があるんだ」

「いえ、どんな理由があろうとも……ズルいですっ! お母さんを差し置いて、先にいただいているなんて……あなた! 私にもくださいっ!」


 ナターリエ? ブラックドラゴンの洞窟では娘想いの模範的な母親だったんだが、この短時間でいろいろと残念になっていないか!?


「わかります。私も……私もアレックス様のが欲しいんですーっ!」

「ふっ。私はご主人様さえ許可していただけるなら、宿まで待たずに今すぐここで……ご主人様っ!? 無視して置いて行かないでください、ご主人様ーっ!」


 グレイスが近付いて来たかと思うと、その後ろでモニカが服を脱ぎだしたので、先を急ぐ事にした。

 ……魔族領を目指しているはずなのに、どうしてこうなるんだ!?

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