第512話 リディアの言葉を思い出したアレックス
プルム・スリーが真っすぐ東へ向かって歩いて行く。
小さな池まで行く事が出来れば、その後は小川沿いを歩いて行くだけなので、おそらく大丈夫だとは思うが……プルムがプルム・スリーの様子を知る事が出来るみたいだし、最悪の場合は何とか助けに行こう。
そんな事を考えながら見送ったところで、フェリーチェが口を開く。
「アレックス様。向こうにちょっとした山があるんですけど、あの上にリス耳族の村があるそうです」
「なるほど。頑張れば今日中には着けそうな位置だな」
「そうですね。では、出発しましょうか」
「あ、待ってくれ。朝食は食べないのか?」
「えっと、実は昨晩デザートをいただいてしまいまして。実はお腹がいっぱいなんです」
昨日食べたデザートでお腹がいっぱい……って、一体フェリーチェは何をどれだけ食べたんだ?
プルムとラヴィニアはアレを飲んで居るから、朝食は不要とジェスチャーで示してきたが、まさかフェリーチェも……何て事はないよな?
まぁデザートって言っていたし、果物か何かを食べたのだろう。
ひとまず、フェリーチェから携帯食を分けてもらい、ニースとユーリと共に食べると、早速小さな山を目指す事に。
今まで大きな河に沿って西へ向かって来たが、ここからは北西へと少しだけ進路が変わる。
「アレックス様。見てください……良い天気ですね」
「え? あ、あぁ。そうだな」
「……アレックス様! えっと、あちらをご覧ください。大きな岩があります」
出発すると、フェリーチェがどうでも良い話をしながら、やたらと俺の傍に寄って来る。
というか、いろんなところが俺の腕に当たっているのだが。
昨日は警戒されていたのか、常に距離があった気がするのに、どうしてこんなに態度が変わって居るんだ?
フェリーチェは魅了耐性があると言っていたから、俺の魅了スキルも効いて居ないはずなのに。
「……フェリーチェちゃん。お兄さんと仲良しになれたんだねー。良かったー。昨日は何だか、ちょっとよそよそしい感じだったもんねー」
「……んー、私としてはもっとグイグイ行くくらいになって欲しかったんだけどねー。出ないと、分身の数に女性の数が合わないのよねー。それにしても、あの人の分身だって説明しなかったのが悪かったのかしら? それとも、やっぱり魅了耐性が多少効いちゃっているのかしら」
後ろで、スライムモードのプルムとラヴィニアが何か話しているが、何の話だろうか?
相変わらずフェリーチェがどうでも良い事で話し掛けてくるので聞こえないが……いや、これはフェリーチェがコミュニケーションを取ろうとしてくれているんだ。
魔物が現れて戦闘になった時、連携が取れるようにしておきたいもんな。
俺も何か話題を……そうだ。昨日の戦いの振り返りをしよう。
あの空中の滑空は見事だったからな。
「えーっと、フェリーチェが得意なのは、相手の背後に回り込んで攻める事だよな? 昨日みたく」
「そ、そうですね。得意というか、好きです。昨日のように、後ろから激しく攻められるのが」
ん? 昨日はフェリーチェの攻撃を逸らしただけで、俺からは攻撃していないよな?
何か勘違いがあるようなので、話題を変えよう。
「えーっと、昨日の風呂はどうだった? 水風呂で良かったのか? 俺やニースはお湯に入る文化なのだが」
「いえ、お風呂は最高でした! あんなにも身体の奥が熱くなったのは、生まれて初めてです!」
んん? フェリーチェが入ったのは、水風呂だよな?
どちらかというと、温まらずに冷えてしまいそうなのだが。
どういう事かと聞こうと思ったところで、山の麓へ到着した。
ここから山登りかと、気を引き締める。
俺やユーリは良いとして、プルムが坂道を登れるか、やや心配だからな。
そんな事を考えていると、
「あなた。あれって……もしかしてレヴィアさんでは?」
ラヴィニアが指差した方向に目をやると、大きな水柱が。
……あ! 思い出した!
昨日、逢瀬スキルを使った時に、上流まで行って陸地へ上がれる場所を見つけたから、迎えに来て欲しいって、リディアが言って居たんだ!
つまりあの水柱は、いつまで経っても現れない俺に怒ったレヴィアが、怒りのままに水魔法を発したという事か?
「……すまない! 皆、急用が出来た。今すぐ、あの水柱が見えた場所へ向かおう」
「私はアレックス様が行かれるのであれば、何処にでもお供します」
「プルムもだよー!」
とりあえず、レヴィアやリディアたちの元に着いたら、即謝らなければ。
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