第563話 人魚族の棲家を出発

「アレックス、お待たせ。来た」


 人魚増の棲家で朝食をいただいたところで、レヴィアがやってきた。

 改めて、人魚族に礼を言い、出発しようとしたのだが、ラヴィニアが悲しそうな父親に止められる。


「アマンダ。やはり、これを……」

「お父さん。この瓶は?」

「人魚族に代々伝わる飲めば確実に妊娠する秘薬だ」

「いや、だから要らないってば」

「いやいや、アレックス君は若くて健康だが、それでも毎日する訳ではないだろう? いいから持って行きなさい。そして、早く孫を見せて欲しい」

「あの、お父さん。アレックスさんは……」


 ラヴィニアが薬を突き返そうしたところで、思わぬところから声がかかる。


「ラヴィニアが要らないなら、レヴィアたんが欲しい!」

「え? では私は不要ですので、どうぞ」

「……ありがとう! 早速子供作る」


 レヴィアがラヴィニアから小瓶を受け取ると、その場で服を脱ごうとし出したので、大慌てで止める。

 今から出発だという話をしているし、ここには人魚族が大勢居るからな。


「待った! あー、レヴィアちゃんと言ったかな? 君の年齢で子供は……」

「レヴィアたんは大人。大丈夫」

「え? どう見ても……こほん。いや、仮にそうだとしても、その薬は君には意味がないんだ」

「なぜ?」

「人魚族は薬に詳しく、いろんな薬を作っているんだが、その確実に妊娠する薬は人魚族専用なんだ。人魚族の女性以外が飲んでも効果が無いんだよ」

「……返す」


 ラヴィニアの父親に言われ、レヴィアがあっさり瓶を返すが、父親から強引に渡され、ラヴィニアが持って行く事に。

 まぁレイへの良い土産だと考え、今度こそ出発する。

 水の中の通路をレヴィア、ラヴィニア、あと未だに居る理由が不明なトゥーリアの四人で通ると、いつもの船があり、今回はミオとユーリ、プルムとルクレツィアが居た。


「アレックスよ。昨日は我を置いて行くなど、酷いのじゃ」

「パパー、おはよー!」

「アレックスさん。また分裂が増えちゃったよー!」


 ミオが口を尖らせているが、昨日はミオが寝ていたから、先に出発した訳なのだが。

 ユーリはいつも通り可愛く抱きついて来て、プルムは……アマゾネスの村に、一体何体俺の分身が居るのだろうか。

 そんな事を考えていると、ルクレツィアがトゥーリアに昨日の事を問いただす。


「ねぇ、トゥーリア。昨日はいつの間に船から居なくなっていたのー? アマゾネスの村に着いたらトゥーリアが居なくて、ビックリしたんだよー?」

「あはは、ごめんねー。ちょっと野暮用があってねー……で、その野暮用なんだけど、ラヴィニアー! さっきの薬を見せてー!」


 俺も残った理由を知りたかったのだが、トゥーリアがルクレツィアの質問をあっさりかわし、ラヴィニアの所へ。


「え? 薬って、これの事ですか?」

「そうそう……うーん。液体の色が全然違う。しかも、この妊娠薬の方が新しいように思える。……となると、私が持って来た薬は一体何なの?」

「ん? どうかしたんですか?」

「え? あはは、何でもないよー! それよりアレックスさん。次は何処へ行くのー?」


 ラヴィニアと何か話していたトゥーリアが、突然俺に話を振って来た。

 結局、どういう理由で残っていたのかは分からず仕舞いだったが、とりあえず出発を優先するか。


「海獺族の島の東側に灯台があるんだが、その辺りへ戻ろうと思う。これまでは人魚族の棲家を探して、海面の辺りを調べていたが、次は空を見上げる事になったんだ」

「了解。とりあえず、レヴィアたんは灯台の辺りまで行く。そこなら、戻るだけだから迷う事もない。余裕」

「すまないが、頼むよ」


 そう言って、レヴィアが早速船を引き、出発する事に。

 さて、あの灯台の近くへ戻るまでの間に、どうやって空に浮かんでいる第一魔族領へ行くかを考えないとな。

 ……一番確実なのは、ユーディットたち天使族に運んでもらう事なのだが、北の大陸は遠いし、大変な気がする。

 何より、天使族一人で俺を空高くへ運ぶ事は出来なさそうだから、大勢に来てもらわないといけないしな。

 とりあえず、自分の目で宙に浮く第一魔族領を確認して、高さの確認だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る