挿話73 乳牛の飼育係になり、張り切り過ぎたムギ

「ふっふふーん。卵、卵ー」


 美味しい卵と鳥肉の為、鳥さんのお家の掃除をしていると、


「ムギ、ちょっと来てくれ」


 アレックスに呼ばれた。

 何だろうかと思って行ってみると、白と黒のマダラ模様の大きな生き物が居る。

 話を聞くと、ホルスタインというミルクを沢山出す牛さんらしい。

 ミルクとお肉! ……こんなに大きな身体なら、皆で沢山食べられる!

 ステーキ、ハンバーグ、ローストビーフ……リディアに教えてもらった料理の名前を思い出していると、先ずはミルクを貰う事になった。


「出たニャー。楽しいニャー」


 牛さんのおっぱいを搾ると、ビューっと大量のミルクが出てくる。

 ちょっと飲んでみると、甘くて味の濃いミルクだった。

 ムギは好きだけど、このミルクは鳥さんたちには違うかな?

 いつものは、食べるミルクって言えそうなくらいに濃厚で、ドロッとしているもんね。

 鳥さんに加えて、牛さんのお世話係に任命されたんだけど、


「うぅぅ……大き過ぎるニャー! あと、食べ過ぎニャー!」


 身体が大きくて、色々と大変だった。

 うぅぅ……でも、美味しいミルクとお肉の為に頑張る!

 コロッケ、ビーフシチュー、焼肉……どれも美味しそうだけど、今の気分は、


「ボルシチニャ! 牛さんの名前はボルシチにするニャ!」


 何となくボルシチと名付けて、鳥さんたちと一緒にお世話する事に。

 一先ず、夕食とお風呂が終わり、鳥さんとボルシチにもご飯をあげに行くと、雌鳥たちが全然食べずにジッとむきムギを見つめてくる。


「あ! いつものミルクが欲しいのニャ? 少し待つニャー」


 急いでお風呂へ行き、ミルクを集めて鳥さんのお家へ。

 雌鳥用のご飯にかけてあげると、美味しそうに食べ出した。

 ……そこまでは良かったんだけど、


「ボルシチ! 待つニャー! それは鳥さんのご飯ニャー! ボルシチのご飯はちゃんとこっちにあるニャー!」


 どういう訳か、ボルシチが鳥さんたちの家にやって来て、雌鳥のご飯を食べてしまった。

 でも、雄鳥の分は食べてないから……ボルシチもミルクが欲しいの?


「わかったニャー。少し待つニャー」


 再びお風呂へ戻るけど、さっき回収したので、全然残っていない。

 どうしようかと思いながら家に入ると、あのミルクの独特な匂いがする!

 匂いを辿って行くと、小さな部屋に着き、アレックスとソフィ、それからフィーネ? って女の子が交尾していた。

 交尾しながら、ぐっすり眠るフィーネとアレックスの所に、沢山ミルクがあるので、たっぷり貰う。

 それにしても、こんなに大きいのが入るなんて、人間の身体は不思議。

 そんな事を思っていると、


「〜〜〜〜〜〜っ!」


 隣のソフィが小さく震え、フィーネの身体がピクンと跳ねる。

 その後、フィーネの身体からミルクが溢れてきた。

 ……知らなかった。このミルクはフィーネから出て来るんだ。

 一先ず、新たに出てきたのも集め、ボルシチの所へ戻る。

 少しだけ味見したけど、採れたてだからか、お風呂のよりも美味しい。


「お待たせなのニャー。フィーネの特性ミルクなのニャー」


 大量のミルクをボルシチのご飯にかけ、少し残して雌鳥さんのご飯に掛ける。

 案の定、ボルシチが凄い勢いでご飯を食べ始め……え? ミルクを運んできた器も舐めるの?

 ボルシチが綺麗にミルクを舐め終えると、その場にうずくまり……あ、あれ!? 白く光ってる!?

 ミルクをあげ過ぎたから?

 普段、お風呂で回収するミルクよりも、かなり多くて、新鮮で、味も濃かった。

 と、とりあえず、誰かを呼びに行こう!

 慌てて家に戻り、ミオ様……は起きてくれない。


「そうだニャ! ソフィとアレックスは起きていたニャ! ……ソフィ、助けて欲しいニャ!」


 アレックスの上でずっと動いているソフィに声を掛けてみたけど、無視!?

 というか、ムギの声が届いてない?

 仕方がないので、フィーネと一緒に寝ている方のアレックスを揺すってみると、


「ん……ムギか? またミルクが必要なら持っていって良いぞ……」


 起きたー!


「違うニャー! ボルシチ……牛さんの様子がおかしいのニャー! 来て欲しいのニャー!」

「牛? ……わかった。フィーネ……フィーネ」

「……アレックス様? もっと激しくするのぉ?」


 アレックスが寝ぼけているフィーネを起こし、起きているはずのソフィをそのままに、寝室へ。

 レイっていう人を寝室から運び出し、


「≪夢の終わり≫」


 フィーネが何か言うと、レイが起きてきた。

 それから、アレックスが事情を説明し、沢山薬を持ったレイを連れ、ボルシチの所へ。


「な、何やコレはっ!? 牛が光ってるやん!」


 レイが驚きながら、ボルシチの事を調べだす。


「ムギ。いつから、光りだしたんだ?」

「この器いっぱいのフィーネのミルクをあげたら、こうなったのニャー」

「フィーネはんのミルク? ……あ、そういう事か。抜け駆けはズルいなぁ……けど、それなら、コレでどうやろ?」


 レイが何かの薬を取り出し、ボルシチに飲ませると、更に光が強くなる。

 少しすると、光が収まったんだけど……あれ? ボルシチが居ない!?

 代わりに知らない人間の女が居た。


「えっ!? 何コレっ!? いゃん、人間の身体っ!? ……待って! この匂いは、さっきの濃厚ミルクっ! ……貴方ね? お願い、さっきの濃厚ミルクをもっとちょうだーい!」


 ムチムチした胸と身体の大きな女がアレックスの足下でしゃがみ込み、やたら息を荒くしているけど……一体何がどうなっているんだろ?

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