第528話 玄武の手がかり
どうやらラーヴァ・ゴーレムは溶岩による攻撃しか出来ないらしく、全くダメージを受けない。
もちろん、ミオやニースに攻撃を向けられたら非常にマズい事になるのだが、それは俺が許さないし、結界も張ってあるので大丈夫だろう。
という訳で、一方的に殴り続けていると、
「ま、待ってくれ。降参だ。許して欲しい」
ラーヴァ・ゴーレムが深々と頭を下げてきた。
「悪魔なのに、許しを乞うのか?」
「違うんです! 俺は悪魔ではないんだ。ちょっと自我が目覚めた、ただのゴーレムなんだ」
「ゴーレム? ゴーレムが喋る訳が……あ! 俺のスキルか! 俺はゴーレム……というか、人形と話せるスキルを持っていたな」
「それでか。アンタと意思疎通が取れるから、俺もテンションが上がって、悪魔って勘違いされたのに便乗しただけなんだ」
テンションの上がるゴーレムか。
ソフィに話したら、興味を持つかもしれないな。
しかし、俺は人形に指示を出すスキルもあるんだが……まぁ意思を持つ相手に使うのはやめておこうか。
「で、お前はこんな洞窟の奥で何をしているんだ?」
「いえ、何もしてないですよ。ただの溶岩ですし」
「だが、ただの溶岩といいながら、ここまで道が整備されているのはどういう事だ? ほぼ一直線だったし」
「あれは、ドワーフたちが掘ったんだよ。元々ここは温泉だったんだ」
「温泉!? 幾ら暑さに強いドワーフといえども、溶岩には……」
「元は……ですってば。今は一切面影が無いですけど、秘湯として賑わっていたんですって」
詳しく話を聞くと、百年近く前の話らしい。
当時はラーヴァ・ゴーレムも普通のゴーレムで、この洞窟の掃除を担当していたそうだ。
「ところがですよ! 玄武が魔王に挑んで、その報復で大陸が持ち上げられて、温泉が変な所に繋がったのか、溶岩に変わってしまったんです」
「え!? その当時を……というか、玄武を知っているのか!?」
「そりゃそうです! あの玄武が魔王に挑んだりしなければ、ここはずっと賑やかな温泉場だったんですから! まったく、勝てもしない戦いに挑みやがって!」
「……俺は玄武の仲間の仲間なんだが」
「……いやー、本当に惜しい! 僅かな僅差! 玄武様たちが魔王を倒してくださっていたらと思うと……くっ、魔王め! 玄武様の力を恐れ、弱体化する為に大陸を持ち上げるなんてっ!」
こいつ……いや、疲れるだけだからスルーしておこうか。
「ところで、その玄武の事を探しているのだが、何か知らないだろうか。居場所とか、魔王に挑む前に住んで居た場所とか」
「住んで居たのかどうかは知らないけど、社っていうんですかね? 小さな家みたいなのがあると、ドワーフたちが温泉で麦酒を飲みながら話して居ましたね」
社……シェイリーと同じだな。
となると、このラーヴァ・ゴーレムの話は信憑性が高い。
「その社の場所を知らないか? だいたいの位置でも構わない」
「えっと、確か……この大陸の最北端にあるって言っていました」
「最北端! そうか、ありがとう!」
「いえいえ、どうしたしまして。という訳で、俺はもう許してもらえた……という事で良いですか?」
「んー、一つだけ確認させてくれ。この洞窟は滝の裏にあるが、外に出ようとは思って居ないんだな?」
「えぇ。というか、その滝があるので外に出られません。それに、出た所でこの近辺に住む生き物の迷惑になるだけでしょう。俺は、昔のように皆が温泉に入って、くつろぎながら楽しく喋っているのを聞くのが好きなんです。誰かに危害を加えようなんて思っていません」
いや、俺は思いっきり攻撃されたんだが……まぁ玄武の事を教えてくれたから、大目に見てやろうか。
そんな事を考えていると、
「パパー! ニースに良い考えがあるのー!」
結界の向こう側から、ニースが俺を呼ぶ。
「どうしたんだ、ニース」
「あのねー! そのラーヴァ・ゴーレムさんが可哀想だから、また人を集めてあげたいなーって思って」
「おぉっ! その容姿は……もしかして、ドワーフ!? かなり幼いけど、ここに温泉を作れたりするのか!?」
どうやらニースが話を聞いていて、ラーヴァ・ゴーレムを可哀想だと思ったらしい。
……もしかしたら、ニナみたくいろいろ掘りたいだけかもしれないが、一先ず話を聞いてみる事にした。
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