第529話 ニースの温泉作り

「ニース。このラーヴァ・ゴーレムに人を集めるというのは、どういう事だ?」

「そのまんまの意味だよー! また温泉を作れば良いと思うのー!」

「だが、温泉を作ると言うのは、そう簡単ではないと思うのだが」


 そもそも温泉とは、地面から湧き出て来るものだよな?

 元は温泉だったというから、掘ってみたら温泉が出て来る可能性が無い訳でもないが、かなり難しいのではないかと思う。

 それどころか、ラーヴァ・ゴーレムの居る溶岩……というか、マグマを掘りあててしまったら、ニースの命に関わる。


「あのね、パパー。ここって、河の下でしょ? お水は沢山あると思うんだー」

「まぁ水は確かにあるが……まさか、ここから真上に掘って、河の底に繋げるのか? 俺は水中で呼吸が出来るけど、ニースが溺れてしまうぞ」

「ドワーフのお嬢さん。気持ちは嬉しいけど、この洞窟は入口こそ滝の裏だが、河から少し横に逸れているんだ。だから、ここから真上に掘っても河底にはぶつからないぞ」


 ニースの言葉に、俺とラーヴァ・ゴーレムとで苦言を呈していると、ニースが首を振る。


「違うよー。河の底に穴を開けるなんて、危険な事じゃなくてー、この上にお風呂を作れば良いと思うのー」

「お風呂……か。俺は一つの岩となら、心を通わせ、岩に届く声を拾う事が出来る。だから、ここと風呂との間を隔てる物が一枚岩なら、まぁ大丈夫かもしれないな」

「そういう事なら、尚更良いよねー。だって、この洞窟……この辺りは一枚岩を繰り抜いて作ってあるもん」


 ニース曰く、この洞窟は自然に出来たのではなく、人工的に作られたのだとか。

 俺には全く分からないが、ドワーフの落盤防止スキルが掛けられている上に、自然に出来る洞窟の形ではないそうだ。

 言われてみれば、随分と歩き易かったし、ほぼ直進だったもんな。


「つまり、この上の岩をお椀のように削り、そこへ河の水が溜まるようにして、それをラーヴァ・ゴーレムに温めてもらうという訳か」

「うん。温泉とは違うけど、自然のお風呂があれば、入りに来る人も現れるかなって」

「なるほど。俺としては、賑やかになるなら何でも良いし、風呂だって丁度良い感じに温めるぜっ! 旦那……娘さんの意見を是非お願いします!」


 ラーヴァ・ゴーレムが頼み込んでくるが、この真上が何処か、分からないといけないんだよな?

 でないと、上から岩を掘る事が出来ないし。


「玄武に会えた後なら構わないが、地上へ戻った後に、ラーヴァ・ゴーレムの居るこの位置を、上からどうやって知るかだな。この真上辺りに風呂を作る必要があるんだよな?」

「そうですね。俺はここから離れるのは難しいですね」

「んー、流石に上からこの位置を調べるのは難しいかなー」


 洞窟の向きと距離を測れば、出来なくはないかもしれないが、地上は地形や障害物もあるし、難しい気がするな。

 どうしたものかと考えていると、


「ふむ。話は聞かせてもらったのじゃ。それなら我がわかるのじゃ」


 ミオが口を開く。


「ミオ、そんな事が出来るのか?」

「うむ。このゴーレムは、どうやら熱を魔力に変換しているらしく、特殊な魔力を感じるのじゃ。更に溶岩を変換しているという事もあり、そこそこ大きな魔力を持っておるのじゃ。この付近からなら、この魔力を辿る事が出来るのじゃ」

「わかった。とりあえず、この温泉建設予定地だけ確認して、玄武のところへ行こうか」


 一先ず方針が決まったので、今後はこの洞窟に人が迷い込んだとしても、攻撃しないように約束させて、外へ。


「お兄さん、遅いよー! すっごく心細かったんだからー!」

「すまない。洞窟の奥で色々あったんだ」


 頬を膨らませるプルムに、何があったか説明すると、滝の裏の洞窟へ通じる道を石の壁で塞いで、船へ。

 ニースから、メイリン経由でユーリに連絡してもらい、天后に転移スキルを使ってもらった。

 昼食を済ませた頃には、レヴィアもラヴィニアも復活していたので、早速玄武の社があるという北へ行こうと思ったのだが、


「パパー。さっきの場所だけでも確認しておきたいなー」

「そうだな。我も先程の魔力を覚えている内に、場所を確認しておきたいのじゃ」


 ニースとミオの意見により、先に温泉予定地へ行く事に。


「アレックス様。今のは何の話ですか?」

「ん? あぁ、さっき色々あってな……」


 近くに居たヴィクトリアが、温泉に興味を持ったようなので、軽く説明すると、


「温泉!? 屋外で全裸になっても怒られないパラダイスですか!? 私もお供させてください!」


 何かを勘違いしているヴィクトリアもついて来る事になってしまった。

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